優しさ

俺は優しい。


その優しさゆえに、ちょくちょく車の誘導をしてあげることがある。駐車場でなかなか車を入れられない人や車を出せない人を見ると、ついついでしゃばってしまうのだ。

 

あぁ、なんて俺は優しいんだ。


しかし、車の誘導をしてあげていると、イライラしてくることがある。なぜならば、ときどき窓を開けない人がいるのだ。これはカチーンとくる。こっちが一生懸命、オーライオーライ言ってるのに窓が開いてないから、なおさら声を張り上げないといけなくなるのだ。

 

 

 

これにはいくら優しい俺でもイラッとする。

 

 

 

だからさ、なんでこっちがこんなに声張らなあかんねん。おばはん……もとい、あなたがモタモタしてるから、わざわざこうやって一肌脱いでいるというのにやな。そっちはそっちで、ちゃんと運転するためにもっとベストを尽くせよ。運転のスキルが低いのは仕方がない。でもそれならば、もっとスペースに余裕のある隅っこに駐車すればいいのよ。何もわざわざ車の密集する、店の入り口付近に駐車しようとしなくたってもいいじゃないか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歩けよっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、なぜにお前は窓を開けない!?

 

 

 

 

 

 

 

 

窓はなんなら密封やからな!窓ぴっちり閉めてあんねん……あっ!!

 

 

おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!

 

 

 

 

 

 

 

 

ひょっとしてエアコンか?

 

 

 

 

涼しいところで運転ですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

おんどりゃ、わしゃ汗だくで誘導してんねんぞ!おどれはせめて窓開けて、わしの声が届くようにしろや!!

 

 

 

 

 

 

 

あーもうっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

イライラするなぁんもうっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 以上です。

 

キャンプファイアー

キャンプファイアーが嫌いだ。何を好き好んで暑い暑い真夏のキャンプ場で、デカい焚き火なんてしなくてはならないのか?夏場に、学校やら各種団体で、キャンプに行くと必ずと言っていいほど、キャンプファイアーがもれなく付いてきたが、これ楽しいの?って、ずっと思っていた。

 

しかも、キャンプファイアーときたら、先生らによってテキトーに班分けされて、班ごとに出し物をしなくてはならないことがある。そしてその出し物は、まったく練られてないから、面白くない。恥ずかしくて声も出てないから、見てる方も何やってんだかまったく分からない。いいよ。もう部屋に帰ってトランプでもやろうよ。と、ずっと考えていた俺だったな。

 

んで、それが終わったら今度は、フルーツバスケットだと?炎を囲んで輪になって?ハンカチを?後ろに置かれると走って追いかけるだと?この暑い暑い真夏のキャンプ場で?走るの?マジで?

 

ハァ……あれってさ、鬼に追いつくはずないのに、ハンカチ置かれたら、みんな必死になって走ってるのよね。意味ないよね。徒歩でもいいよね。だってどうせ追いつかないんだもん。汗かくだけ無駄。でも走っちゃう。おいコラ待てーっ!って感じで。顔は笑ってるんだよね。嬉しいんだよ。これだけたくさん人がいる中で、自分を選んでハンカチを置いてってくれたことが。嬉しくなっちゃうのよ。んで、待てコラーッ!!って、ついついニヤニヤしながら追いかけちゃ……い、言っとくけど、俺はそんなことで、イチイチ感情を表になんて出さないよ?あーやだやだ。なんで暑い暑い暑い暑い真夏のキャンプ場で、はしゃがなくちゃならないんだ。汗まみれになるし、蚊やブヨにも食われるし、楽しいことなんてなんにもないよ。早く帰って家でゴロゴロしたい気持ちでいっぱいだよね。ハンカチごときで、喜んでんじゃねぇよ。ふん。

 

 

 

んで、またみんなで歌う歌がヌルいんだこれが。

 

 

 

 


♪遠き山に日は落ちて

 

星は空を 散りばめぬ

 

今日のわざを なし終えて

 

心かろく やすらえば

 

風はすずし この夕べ

 

いざや 楽しき まどいせん

 

 

 

 

 

 

まどいせん〜

 

 

 

 

 

 

 

……?

 

 

 

 

 

 

まどいせん?

 

 

 

 

 

 

この歌ってさ、この最後にでてくる “ まどいせん ” の意味がまったくわからんので、イマイチ感情移入できないのよね。最後の最後で突き放される感じ?前半いい歌なのにね。もったいな……いや、別にジーンとなんか来てないよ?

 

 

 

 

そうそう、それであれだ。たいていキャンプファイアーの最後はこの歌で締め括るんだよな。
 

 

 

 

 


♪燃えろよ燃えろよ
炎よ燃えろ
火の粉を 巻き上げ
天までこがせ

 

 

照らせよ照らせよ
真昼のごとく
炎よ 渦巻き
闇夜を照らせ

 

 

燃えろよ照らせよ
明るく熱く
光と熱との
もとなる炎

 

 

 

 

 

 

 

気付いたら、俺は大熱唱していた。止め処なく溢れてくる感情をこれ以上抑えることなんてできやしなかった。そして、こう呟いていた。もっと!もっと火を!!パチパチとはぜた火が、空中に舞い上がっていったかと思うと、次々と闇夜に吸い込まれていく。ふと視線を感じて我にかえると、キャンプファイアーの炎ごしに、陸上部の奈帆子が俺のことを見つめていた。奈帆子は目を逸らさずに、まっすぐに俺を見つめ、その目の中には、メラメラと大きな炎が燃え盛っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、夏の終わりにひとつの小さな恋が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


って、これ何の話やねんっ!!!

 

 

終わり

絵描き

「この人、絵とか描いとるらしいな?」

以前、勤めていたタクシー会社で、僕が運行管理者をしていたころの話だ。夜遅く、事務所でひとり勤務割りを作っていたら、ひとりの運転手がやってきてそう言った。それは、最近入ってきた運転手のOのことを指して言っているようで、ホワイトボードに貼り出してある新入社員の紹介写真を見ながらそうつぶやいたのだ。

運転手のOは、アタマは白髪ボサボサで、いつも何色だかわからないボロボロの革ジャンを着ていて、ところどころ歯が抜けていて、こういったらなんだが品がなかった。年は50代後半、独り者。拘束時間の長いタクシー運転手をしながら、休みの日には絵を描いているのだろうか?そう言われてみれば、いつも着てくる革ジャンは、絵の具があちこちについてガピガピになったようにも見える。どんな絵を描いているのか気にもなったが、Oときたらやたらめったら無愛想で、朝、事務所にやってきても他の運転手のように、話しこんでいくことなく、そのまま出庫したら夜中まで事務所には帰ってこなかった。

ある運転手の紹介で入ってきていたOは、入社してからしばらくは大人しくしていたが、半年も過ぎたころから素行の悪さが目立ってきた。運転手や配車係と喧嘩することやお客さんとのトラブルも度々で、しまいには大きな事故を起こしてタクシーを一台おしゃかにしてから辞めていったのであった。たった1年ほどの在籍期間だった。サラッと書いたが、詳しく書いたらみんなビックリしてしまうような問題をたくさん起こしていたので、Oが辞めてくれてホッと胸を撫で下ろした人が多かった。

まぁやたら問題の多い運転手ではあったが、「絵を描いているらしい。」という情報が、僕のOに対する評価を、皆に比べて少しだけマシな物にしていた。なんだか、憎めないではないか……いや、僕もOが苦手は苦手だったんだけど、どう説明したらいいだろうか。絵を描いているということで、僕はOを「変人」というフォルダに入れていたのだ。(だ、だよね?絵描きって変人だよね?だって僕の知ってる絵描きは皆、変人だもの。)僕は、Oの悪い素行を目や耳にするたび、「まぁ変人だから仕方ないよな。」と心のどこかで思っていた。変人と思われることは得だ。

しかし、それは僕の大きな勘違いだった。Oのことは、「変人」のフォルダではなく、「ヤクザ」のフォルダに入れるべきだったのだ。一部の運転手だけが、知ってて黙ってたらしい。つまり、「絵」とは「刺青」のことだった。それを知ったときの衝撃は忘れられない。

みんなも今度から「◯◯さんって、絵描いてるらしいよ。」という噂を聞いたときには気をつけよう。

長い長い一週間

兵庫県には、トライやるウィークという、中2が職業体験をするための課外授業がある。うちの職場でも、毎年5人ほど預かっている。みなさんお察しの通り、トライやるウィークの担当者はその一週間、中学生につきっきりで、他のことが何もできなくなる。そして、だいぶかったるい。ていうか、もう大変だ。大わらわだ。今年も5人の男子中学生を預かった。午前9時から午後3時までの間、息つく暇もなく、面倒を見なければならないので、その準備も含めると、受け入れる事業所の担当者にとっては、気の重たいイベントだ。

午後3時になって、やっと中学生が帰ってからも、一息なんてつけない。中学生が書いて提出してくる作業日誌には、「事業所の人からの一言」という欄があるので、翌日までにそれを書いておいてやらなければならないのだ。そないにあるかいな。しかも5人分もないない。伝えたいことなんてないから。かといって、全員に同じことを書くというのも、やりたくない。しかし、そんなことよりも、俺の机の上には、中学生の相手をしていた間に、あちこちからかかってきた電話の用件メモでいっぱいだ。また、こんなときに限って、ずっと不在だった俺の机には、上司が仕事の置き逃げをしている。ないないないない。ともかく、5人分も書くことなんかないからな。とか思いながら、なんとかして言葉を絞り出す。

さて、そんな長い長い一週間が、今日やっと終わった。中学生を事務所へ連れて行き、「一週間お世話になりました。」と挨拶をさせ、その後ろ姿を見守りながら、ホッとしたのもつかの間のこと、(別れを惜しむ余裕もなく、)この一週間にした作業の後片付けをするために、屋外をバタバタ動き回りながら、俺は遠くから、自転車で帰っていく5人の中学生に手を振った。ん?ちょっと待てよ……そういや、一番世話になってるはずなのは、担当者の俺やん?事務所の奴らの前で、わざわざ挨拶させたけど、事務所にずっといてた奴らは別に、そんなに世話してないやん?世話したんは、ほとんど俺やん?おいおい中学生よ、この俺に、ちゃんと挨拶してから帰って行けよな。



でもまぁそんなことは、中2には気がつかへんよな。俺の口から「はい、そしたら最後に、俺にお礼言うて!」って言うのもなんか変やしな。しゃあないか。

5人がやってきた月曜日の俺は、「こいつら使えんなぁ。」と、イライラしていたんだけど、金曜日の俺は、すっかり不器用な5人の中学生が可愛くなってしまっていた。隙あらば怠けようとするリーダーのO君。ニコニコしながらすぐ遊びに走ろうとするムードメイカーのE君。最初から最後までずっとダラダラしていたマイペースなM君。疑問に思ったことはすぐに質問してくる研究者肌のS君。5人の中では一番おとなしかったが一番真面目に作業をやってくれていたメガネのK君。

……とか、もうすでに懐かしく思いながら、中学生が控え室に使っていた部屋に戻ると、机の上にポツンとメモが残されていた。

きっとこれは、他の4人に遅れて、最後に帰って行ったメガネのK君の字だ。これを書いていたので、帰るのが遅れたのだろう。

皆を集めて、話しをしているときも、まっすぐに俺の目を逸らすことなく見つめて、キラキラした眼差しで話しを聞いてくれていた。そんなK君のまっすぐな目を見た俺は、ついつい、いい気になって、「社会人に必要なことは?」みたいなことを熱く語ってしまった気がする。いやはっきりと語ったな。この口で……あぁ自己嫌悪や。これではまるで俺、うっとおしいおっさんやん。



さて、メモはほんの一言だけだったんだけど、俺の胸にはかなり響いた。他の4人がそそくさと部屋を出てしまってから、あわててひとりで書いたくせに、個人名ではなく「byトライやる生」としているのが、また泣ける。こんな気の利く中2なかなかおらんで。

精神的外傷

痛みは突然やってきた。今日職場で、外の倉庫に向かう途中、僕はとっさに左足に履いていた靴を脱ぎ捨てた。あまりの激痛に、てっきり釘でも踏み抜いたものと思ったのだが、僕の左足の親指の先にはムカデがガブリとかぶりついていた。ちょうど小指2本分を足したくらいの長さで太さのやつだ。

実は僕の職場には、ムカデがちょくちょく出る。不可解なのは、ムカデはいつから僕の靴の中にいたのか?ということだ。僕は、職場で履く靴を更衣室に置いていて、毎朝夕に履き替えている。ムカデは、夜の間にこっそり靴の中に潜んでいたのだろうか?いやいや、もしもムカデが靴の中に潜んでいたのなら、靴に足を入れた時点で噛まれていただろう。僕がムカデに噛まれたのは、今日の午前10時頃だ。2時間近くも靴の中でムカデが、ただジッとしているなんてことが考えられるだろうか?違和感もなかった。かと言って、今日の僕は、朝礼が終わってからずっと忙しく動き回っていたので、どこかでムカデが取り付いて(しかも靴の中の奥の奥にまで潜り込んで)きたとは、にわかには考えにくいのだ。やはり、ムカデはずっーと僕の靴の中に潜んでいたのだろうか?

ああ考えれば考えるほどゾッとする。もう靴を職場に置きっぱなしにするのは絶対にやめよ……





















ああーーーっ!今日も靴置いて帰ってきてもうたたたっっっ(泣)



授業参観

声はデカいし、やたらオーバーリアクションだ。何といっても全てにおいて芝居じみているのだ。キャラを作り込みすぎていて、見ていてしんどい。





その日は娘の授業参観日だった。一年生になったばかりの眩しい娘を学校で見れるのはうれしいものだ。僕は、ホームセンターで買ってきたばかりの深緑色のスリッパを履いて、教室へ向かった。はりきって早めに家を出てきたので、まだ授業は始まっておらず、僕が教室へ入ると、担任の先生が子供達に混じってワイワイ話していた。

娘の横顔が見えるベストポジションをキープした僕は、感慨深くその横顔を眺めていた。僕が来ていることに気づいた娘が、小さく手を振ってくる。僕はニッコリしながら、大きく手を振り返した。

「はいはーい!みなさーん!授業が始まる前に先生の話を聞いてくださーい。」

教室にいる保護者たちの濃度が強まってきたころ、先生が教卓に立って子供達に話しかけた。その女性の先生は、50前くらいだろうか。セミロングのストレートヘアに銀縁の眼鏡をかけていて、まさに「ザ・先生」といういでたちだった。そして、子供達に話しかけるときは、一音ずつゆっくりしっかりと発音した。

「今日はとても暑いので、上着を脱いでもいいですよ。脱いだ上着は、椅子にキチンと掛けておきましょう。でもね。授業中に、何度も上着を脱いだり着たりするのはやめましょう。暑い寒いを感じれるのは人間だけやねんで!知ってた?」

僕の娘を観察していると、すでに椅子に掛けてある上着を気にしている。娘はしばらく迷ったあとに、授業中は上着を着ないと決めたようだ。前から二列目に座った窓際の娘はとても小さくてかわいかった。

「みんなー!参観日やからって緊張してる?いつも通りでええねんでー!!緊張するのも人間だけっ!!

それにしても声のデカい先生だ。言いまわしもいちいちセリフっぽい。いつもこんな調子なのか?それとも父兄の前だから、気負っているのだろうか?僕が訝しんでいると、授業の始まるチャイムが鳴ったので、僕は時計を確認した。45分授業の間に、次男のいる4年生のクラスにもいかなければならないため、9時05分頃になったら今いる娘のクラスを離れなければならないな。

ふと気づくと、先生が手にタンバリンを持って、教壇に立っていた。あれ?算数の授業だと聞いていたのに、音楽になのかな?と思ったとき、先生がゆっくりと大きな声を放った。

「ブロックを机の上に出して!」

さっきまでガヤガヤしていた子供達の間に、急に緊張感が走る。子供達は机の中からブロックを取り出し、机の上に並べ出した。ブロックとは 、麻雀牌くらいの大きさで表が青色、裏面に赤色の丸いシールが貼ってある教材で、入学したときに “ おはじき ” と一緒に購入させられたわけのわからない物のひとつだ。




「セット!」




という先生の号令で、子供達はサササッと10個のブロックの青色を表にして、横一列に並べ始めた。



「セット!!」



もたついている子供に向かって、先生が鋭く声を放つ。そうして、全員の準備が整ったことを確認した先生は、まっすぐ正面を見据えたままタンバリンを叩く。


パンッパンッパンッ


子供達は、机の上に並べたブロックを必死にひっくり返している。僕のすぐ目の前に座っている子の手元を見てみると、10あるブロックのうち3つをひっくり返している。赤色のブロックが3つ、青色のブロックが7つという具合に……どうやら、先生の叩いたタンバリンの数だけ、ブロックをひっくり返す授業のようだ。ある意味本番でもある今日までに、何度も練習してきたのだろう。もたつく子もいるが、教室には一体感がある。先生の叩いた音の数だけ、うまくひっくり返すことができて、安堵感が広がる教室に、容赦なく先生の声が響き渡る。




「セット!!」




子供達は慌ててブロックをひっくり返して、青色の面だけが表になるように戻していく。僕の目の前に座っている子は、少し違うことを考えているようで、ブロックのひとつをゆっくり眺めていた。




「セット!!!」




すかさず、先生のヒステリックな声が飛んできた。その子は、ハッと我に返ってからすべてのブロックを元に戻した。少しの間をおいて、先生がタンバリンを叩く。何度も。




パンッパンッパンッパンッパンッ







「セット!」







パンッパンッ







「セット!」










パンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッ









「セット!」









「セット!!」














「セット!!!」



















えーと、これはあれですか??




















犬の調教ですか?














先生、授業が始まる前にあれだけ「だって人間だもの」アピールしてましたやん?











先生の圧にヤラレたのと、娘が誰よりも手際よくブロックをひっくり返している姿を見て、なんともいたたまれなくなった僕は、45分授業の半分もジッと見ていることができず、教室を後にしたのであった。















おしまい

リベンジ

この頃、テレビ出演に、または林業従事に、そしてサーフィンや婚活の講師にヒッパリダコの我が(書くことの)師匠が教えてくれた “ ヨクヤキ ” を昨日初めてオーダーした。餃子の王将での話だ。

いや、正確には二度目のオーダーだ。二週間くらい前に行った駅前店で、「そうだ師匠が、前に言ってたあれ頼んでみよう!」と思いだしたのだ。しかし、その時は “ ヨクヤキ ” という単語がどうしても思い出せず、「しっかり焼いてください。」とオーダーしたのだった。その店の店員は、怪訝な顔をしてから厨房へ向かって声をはりあげた。

「イーガーコーテル!」

嫌な予感がした。それはいつもの感じと同じじゃないのかい?「イーガーコーテル」は、王将で餃子を一人前頼んだ時に、決まって店員が厨房へ向かって言うやつだ。つまり、「しっかり焼く」という大事なキーワードはそこには含まれていないということが、なんとなく僕にはわかった。

そしてやっぱり、出てきたのは普通の焼き加減の餃子だった。僕のオーダーに対して、怪訝な顔をしたその店員はきっと、「しっかり焼いてください。」と言った僕に、ムッとしていたに違いない。



「は?あんた何言ってんの?おれ仕事でやってんだからしっかり焼くに決まってんだろ!」



ってな、目つきだった。





それから二週間後、こないだとは違う店にやって来た僕は、同じ過ちは繰り返したくなかったので、「しっかり目に焼いてくださいね。」と店員さんに言った。


すると、店員さんは「ヘイ!ヨクヤキですねっ!」と笑顔で返してくれた。僕の思いが伝わり、とてもうれしかった。







しっかり覚えておこう。








“ ヨクヤキ ” 












まぁ実際のところ、口にするのはなんだか通ぶってるみたいで恥ずかしいから、今度からも「しっかり目に焼いてくださいね。」ってオーダーするけどね。