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持ち味

近所のマックスバリューにいるレジ係の若い男の子の声が、むちゃくちゃええ声だ。年齢は二十代前半ってところだろうか。ぽっちゃりとして、色白の憎めない見た目からは、想像もつかないようなええ声をだして接客しやがる。それは、若さを生かした元気いっぱいなハイトーンではなく、あくまで抑えたロートーンであり、耳元で囁くような声だ。その落ち着きようはまるで、ベテランのようでもある。いつも、僕はレジに並ぶときにレジ係はあまり意識しないのだが、列が進んでたまたまその声の持ち主に出会えたときには「当たり!」と勝手に思っていた。

 

しかしだ。最近、逆に鼻に突き出したのだ。その声が……きっと、自分でも、ええ声だと思い始めてしまったのだろう。

 

「いらっしゃいますせぃえ〜。」

 

「レジ袋はどうなさいますかぅあ〜?」

 

「カードはお持ちではないでしょうかぁあ〜?」

 

「ありがとうございましたぁはあ〜。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前は一昔前の個性派の車掌さんか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

きっと誰かに、その声を褒められでもしたのだろう。はっは〜ん、パートのおばちゃんたちか?

 

 

 

 

 

 

「タニモッチャン(仮名)の声ええわぁ〜。」

 

「あたしもそう思うねん。この頃、あたしなんかタニモッチャン(仮名)の声聞いただけで、なんかこう元気が出てくるもん。」

 

「でもな、タニモッチャン(仮名)は声もええけどな。実は中身もなかなかええ男やねんでぇ〜。」

 

「あんまし、あんたが男のことを褒めとんのを聞いたことないもんな。こりゃ間違いないわ〜。タニモッチャン帰り道気ぃつけや〜。あんた狙われとるで〜ガハハハハ〜。」

 

 

 

 

 

おばちゃんに狙われて満更でもない谷本(仮名)君は、意識してしまったのだ。これでは持ち味が台無しだ。

 

 

 

 

 

 

 

今度から出会ったら「ハズレ」のことな。

 

カマキリ

カマキリが卵を産んでいるところに遭遇したんです。活発な秋雨前線により、いつまでも不安定に居座り続ける厚い雲に気押されることなく、懸命にお腹を動かすカマキリの姿に、しばらく目が離せなくなってしまいました。産みたての卵嚢(らんのう・卵を守る包)って緑色なんですね。

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カマキリの卵といえば、茶色い状態の物しか見たことないので意外だったんですが、そこでハッ!としたわけなんです。

 

 

カマキリのメスって交尾のあとにオスを食べちゃうって言うじゃない?てことはですよ?よ?よ?実はこの卵嚢が緑色なのは、ひょっとしてオスの体の色が滲み出てるってことなのかな?って想像してしまい思わず、ひょえぇぇぇ〜っと叫びそうになってしまいましたよ。が……いやいやちょっと待てよと、すぐに考え直したのです。これはひょっとしたら、西田局長が泣くタイプの父と子の感動の物語なのではないか?

 

 

 

 

実は、お父さんカマキリは死してなお子供たちを守るための人柱(いや虫柱か?)となっているのではないのでしょうか!?という仮説が浮かび上がってきたのです。

 

 


つまりこういうことなのです。お父さんカマキリは、この世に産まれてくる新しい命のため、自ら進んでその身体をお母さんカマキリに差し出したのです。お母さんカマキリとのたった一度きりの契りを、そしてその愛への誓いを確かなものとするために、お父さんカマキリが選んだ道なのです。なぜなら、屈強な他の雄カマキリたちとの闘いをくぐり抜けてきたお父さんカマキリの鍛え抜かれた身体は、脆弱な卵たちを守るために求められ、その思いと共にお母さんカマキリに咀嚼され、その身体を通り抜け卵嚢となることで、愛を証明したのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

これはある二匹のカマキリによる純粋な愛の物語なのです。

 

 

 

 

 

 

 

 


食べられてしまったお父さんカマキリが、空の上から微笑みながら卵を見守っている姿を思い浮かべた西田局長は、ハンカチを手にただただ嗚咽を漏らすばかりでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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なんちゃって。

優しさ

俺は優しい。


その優しさゆえに、ちょくちょく車の誘導をしてあげることがある。駐車場でなかなか車を入れられない人や車を出せない人を見ると、ついついでしゃばってしまうのだ。

 

あぁ、なんて俺は優しいんだ。


しかし、車の誘導をしてあげていると、イライラしてくることがある。なぜならば、ときどき窓を開けない人がいるのだ。これはカチーンとくる。こっちが一生懸命、オーライオーライ言ってるのに窓が開いてないから、なおさら声を張り上げないといけなくなるのだ。

 

 

 

これにはいくら優しい俺でもイラッとする。

 

 

 

だからさ、なんでこっちがこんなに声張らなあかんねん。おばはん……もとい、あなたがモタモタしてるから、わざわざこうやって一肌脱いでいるというのにやな。そっちはそっちで、ちゃんと運転するためにもっとベストを尽くせよ。運転のスキルが低いのは仕方がない。でもそれならば、もっとスペースに余裕のある隅っこに駐車すればいいのよ。何もわざわざ車の密集する、店の入り口付近に駐車しようとしなくたってもいいじゃないか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歩けよっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、なぜにお前は窓を開けない!?

 

 

 

 

 

 

 

 

窓はなんなら密封やからな!窓ぴっちり閉めてあんねん……あっ!!

 

 

おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!

 

 

 

 

 

 

 

 

ひょっとしてエアコンか?

 

 

 

 

涼しいところで運転ですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

おんどりゃ、わしゃ汗だくで誘導してんねんぞ!おどれはせめて窓開けて、わしの声が届くようにしろや!!

 

 

 

 

 

 

 

あーもうっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

イライラするなぁんもうっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 以上です。

 

キャンプファイアー

キャンプファイアーが嫌いだ。何を好き好んで暑い暑い真夏のキャンプ場で、デカい焚き火なんてしなくてはならないのか?夏場に、学校やら各種団体で、キャンプに行くと必ずと言っていいほど、キャンプファイアーがもれなく付いてきたが、これ楽しいの?って、ずっと思っていた。

 

しかも、キャンプファイアーときたら、先生らによってテキトーに班分けされて、班ごとに出し物をしなくてはならないことがある。そしてその出し物は、まったく練られてないから、面白くない。恥ずかしくて声も出てないから、見てる方も何やってんだかまったく分からない。いいよ。もう部屋に帰ってトランプでもやろうよ。と、ずっと考えていた俺だったな。

 

んで、それが終わったら今度は、フルーツバスケットだと?炎を囲んで輪になって?ハンカチを?後ろに置かれると走って追いかけるだと?この暑い暑い真夏のキャンプ場で?走るの?マジで?

 

ハァ……あれってさ、鬼に追いつくはずないのに、ハンカチ置かれたら、みんな必死になって走ってるのよね。意味ないよね。徒歩でもいいよね。だってどうせ追いつかないんだもん。汗かくだけ無駄。でも走っちゃう。おいコラ待てーっ!って感じで。顔は笑ってるんだよね。嬉しいんだよ。これだけたくさん人がいる中で、自分を選んでハンカチを置いてってくれたことが。嬉しくなっちゃうのよ。んで、待てコラーッ!!って、ついついニヤニヤしながら追いかけちゃ……い、言っとくけど、俺はそんなことで、イチイチ感情を表になんて出さないよ?あーやだやだ。なんで暑い暑い暑い暑い真夏のキャンプ場で、はしゃがなくちゃならないんだ。汗まみれになるし、蚊やブヨにも食われるし、楽しいことなんてなんにもないよ。早く帰って家でゴロゴロしたい気持ちでいっぱいだよね。ハンカチごときで、喜んでんじゃねぇよ。ふん。

 

 

 

んで、またみんなで歌う歌がヌルいんだこれが。

 

 

 

 


♪遠き山に日は落ちて

 

星は空を 散りばめぬ

 

今日のわざを なし終えて

 

心かろく やすらえば

 

風はすずし この夕べ

 

いざや 楽しき まどいせん

 

 

 

 

 

 

まどいせん〜

 

 

 

 

 

 

 

……?

 

 

 

 

 

 

まどいせん?

 

 

 

 

 

 

この歌ってさ、この最後にでてくる “ まどいせん ” の意味がまったくわからんので、イマイチ感情移入できないのよね。最後の最後で突き放される感じ?前半いい歌なのにね。もったいな……いや、別にジーンとなんか来てないよ?

 

 

 

 

そうそう、それであれだ。たいていキャンプファイアーの最後はこの歌で締め括るんだよな。
 

 

 

 

 


♪燃えろよ燃えろよ
炎よ燃えろ
火の粉を 巻き上げ
天までこがせ

 

 

照らせよ照らせよ
真昼のごとく
炎よ 渦巻き
闇夜を照らせ

 

 

燃えろよ照らせよ
明るく熱く
光と熱との
もとなる炎

 

 

 

 

 

 

 

気付いたら、俺は大熱唱していた。止め処なく溢れてくる感情をこれ以上抑えることなんてできやしなかった。そして、こう呟いていた。もっと!もっと火を!!パチパチとはぜた火が、空中に舞い上がっていったかと思うと、次々と闇夜に吸い込まれていく。ふと視線を感じて我にかえると、キャンプファイアーの炎ごしに、陸上部の奈帆子が俺のことを見つめていた。奈帆子は目を逸らさずに、まっすぐに俺を見つめ、その目の中には、メラメラと大きな炎が燃え盛っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、夏の終わりにひとつの小さな恋が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


って、これ何の話やねんっ!!!

 

 

終わり

絵描き

「この人、絵とか描いとるらしいな?」

以前、勤めていたタクシー会社で、僕が運行管理者をしていたころの話だ。夜遅く、事務所でひとり勤務割りを作っていたら、ひとりの運転手がやってきてそう言った。それは、最近入ってきた運転手のOのことを指して言っているようで、ホワイトボードに貼り出してある新入社員の紹介写真を見ながらそうつぶやいたのだ。

運転手のOは、アタマは白髪ボサボサで、いつも何色だかわからないボロボロの革ジャンを着ていて、ところどころ歯が抜けていて、こういったらなんだが品がなかった。年は50代後半、独り者。拘束時間の長いタクシー運転手をしながら、休みの日には絵を描いているのだろうか?そう言われてみれば、いつも着てくる革ジャンは、絵の具があちこちについてガピガピになったようにも見える。どんな絵を描いているのか気にもなったが、Oときたらやたらめったら無愛想で、朝、事務所にやってきても他の運転手のように、話しこんでいくことなく、そのまま出庫したら夜中まで事務所には帰ってこなかった。

ある運転手の紹介で入ってきていたOは、入社してからしばらくは大人しくしていたが、半年も過ぎたころから素行の悪さが目立ってきた。運転手や配車係と喧嘩することやお客さんとのトラブルも度々で、しまいには大きな事故を起こしてタクシーを一台おしゃかにしてから辞めていったのであった。たった1年ほどの在籍期間だった。サラッと書いたが、詳しく書いたらみんなビックリしてしまうような問題をたくさん起こしていたので、Oが辞めてくれてホッと胸を撫で下ろした人が多かった。

まぁやたら問題の多い運転手ではあったが、「絵を描いているらしい。」という情報が、僕のOに対する評価を、皆に比べて少しだけマシな物にしていた。なんだか、憎めないではないか……いや、僕もOが苦手は苦手だったんだけど、どう説明したらいいだろうか。絵を描いているということで、僕はOを「変人」というフォルダに入れていたのだ。(だ、だよね?絵描きって変人だよね?だって僕の知ってる絵描きは皆、変人だもの。)僕は、Oの悪い素行を目や耳にするたび、「まぁ変人だから仕方ないよな。」と心のどこかで思っていた。変人と思われることは得だ。

しかし、それは僕の大きな勘違いだった。Oのことは、「変人」のフォルダではなく、「ヤクザ」のフォルダに入れるべきだったのだ。一部の運転手だけが、知ってて黙ってたらしい。つまり、「絵」とは「刺青」のことだった。それを知ったときの衝撃は忘れられない。

みんなも今度から「◯◯さんって、絵描いてるらしいよ。」という噂を聞いたときには気をつけよう。

長い長い一週間

兵庫県には、トライやるウィークという、中2が職業体験をするための課外授業がある。うちの職場でも、毎年5人ほど預かっている。みなさんお察しの通り、トライやるウィークの担当者はその一週間、中学生につきっきりで、他のことが何もできなくなる。そして、だいぶかったるい。ていうか、もう大変だ。大わらわだ。今年も5人の男子中学生を預かった。午前9時から午後3時までの間、息つく暇もなく、面倒を見なければならないので、その準備も含めると、受け入れる事業所の担当者にとっては、気の重たいイベントだ。

午後3時になって、やっと中学生が帰ってからも、一息なんてつけない。中学生が書いて提出してくる作業日誌には、「事業所の人からの一言」という欄があるので、翌日までにそれを書いておいてやらなければならないのだ。そないにあるかいな。しかも5人分もないない。伝えたいことなんてないから。かといって、全員に同じことを書くというのも、やりたくない。しかし、そんなことよりも、俺の机の上には、中学生の相手をしていた間に、あちこちからかかってきた電話の用件メモでいっぱいだ。また、こんなときに限って、ずっと不在だった俺の机には、上司が仕事の置き逃げをしている。ないないないない。ともかく、5人分も書くことなんかないからな。とか思いながら、なんとかして言葉を絞り出す。

さて、そんな長い長い一週間が、今日やっと終わった。中学生を事務所へ連れて行き、「一週間お世話になりました。」と挨拶をさせ、その後ろ姿を見守りながら、ホッとしたのもつかの間のこと、(別れを惜しむ余裕もなく、)この一週間にした作業の後片付けをするために、屋外をバタバタ動き回りながら、俺は遠くから、自転車で帰っていく5人の中学生に手を振った。ん?ちょっと待てよ……そういや、一番世話になってるはずなのは、担当者の俺やん?事務所の奴らの前で、わざわざ挨拶させたけど、事務所にずっといてた奴らは別に、そんなに世話してないやん?世話したんは、ほとんど俺やん?おいおい中学生よ、この俺に、ちゃんと挨拶してから帰って行けよな。



でもまぁそんなことは、中2には気がつかへんよな。俺の口から「はい、そしたら最後に、俺にお礼言うて!」って言うのもなんか変やしな。しゃあないか。

5人がやってきた月曜日の俺は、「こいつら使えんなぁ。」と、イライラしていたんだけど、金曜日の俺は、すっかり不器用な5人の中学生が可愛くなってしまっていた。隙あらば怠けようとするリーダーのO君。ニコニコしながらすぐ遊びに走ろうとするムードメイカーのE君。最初から最後までずっとダラダラしていたマイペースなM君。疑問に思ったことはすぐに質問してくる研究者肌のS君。5人の中では一番おとなしかったが一番真面目に作業をやってくれていたメガネのK君。

……とか、もうすでに懐かしく思いながら、中学生が控え室に使っていた部屋に戻ると、机の上にポツンとメモが残されていた。

きっとこれは、他の4人に遅れて、最後に帰って行ったメガネのK君の字だ。これを書いていたので、帰るのが遅れたのだろう。

皆を集めて、話しをしているときも、まっすぐに俺の目を逸らすことなく見つめて、キラキラした眼差しで話しを聞いてくれていた。そんなK君のまっすぐな目を見た俺は、ついつい、いい気になって、「社会人に必要なことは?」みたいなことを熱く語ってしまった気がする。いやはっきりと語ったな。この口で……あぁ自己嫌悪や。これではまるで俺、うっとおしいおっさんやん。



さて、メモはほんの一言だけだったんだけど、俺の胸にはかなり響いた。他の4人がそそくさと部屋を出てしまってから、あわててひとりで書いたくせに、個人名ではなく「byトライやる生」としているのが、また泣ける。こんな気の利く中2なかなかおらんで。

精神的外傷

痛みは突然やってきた。今日職場で、外の倉庫に向かう途中、僕はとっさに左足に履いていた靴を脱ぎ捨てた。あまりの激痛に、てっきり釘でも踏み抜いたものと思ったのだが、僕の左足の親指の先にはムカデがガブリとかぶりついていた。ちょうど小指2本分を足したくらいの長さで太さのやつだ。

実は僕の職場には、ムカデがちょくちょく出る。不可解なのは、ムカデはいつから僕の靴の中にいたのか?ということだ。僕は、職場で履く靴を更衣室に置いていて、毎朝夕に履き替えている。ムカデは、夜の間にこっそり靴の中に潜んでいたのだろうか?いやいや、もしもムカデが靴の中に潜んでいたのなら、靴に足を入れた時点で噛まれていただろう。僕がムカデに噛まれたのは、今日の午前10時頃だ。2時間近くも靴の中でムカデが、ただジッとしているなんてことが考えられるだろうか?違和感もなかった。かと言って、今日の僕は、朝礼が終わってからずっと忙しく動き回っていたので、どこかでムカデが取り付いて(しかも靴の中の奥の奥にまで潜り込んで)きたとは、にわかには考えにくいのだ。やはり、ムカデはずっーと僕の靴の中に潜んでいたのだろうか?

ああ考えれば考えるほどゾッとする。もう靴を職場に置きっぱなしにするのは絶対にやめよ……





















ああーーーっ!今日も靴置いて帰ってきてもうたたたっっっ(泣)