コンコンコン

必要ですか?

未だに公衆トイレで個室に入っていると、ノックしてくる人がいます。

あれって必要ですか?

個室ってのは内側からロックかけたら

外側はドアノブのところが

赤色になっているはずなんです。

多分ほとんどのトイレがそういう構造になってますよね?

みなさんご存知のようにそれが、「入ってます」のサインなんです。

ところがなぜかいるんです。

まだノックしてくる奴が!!

おいおい見たら分かるやろ!

ノックし返すのも面倒くさいし、

第一プレッシャーかけられてるみたいで落ち着かへんわっ!


あ!そうか……わかったぞ。

あいつらおれに早く出てもらいたいからノックするんか?

おれが長いから、待ちきれへんのや!?

(この場合、「長い」というのはその個室内での成果品のことを言っているのではなく、

私の所要時間が「長い」ことを言っています。

でも体調によっては、私の成果品が「長く」なることもありますので、悪しからず。)



そうか……それならなおさら天邪鬼なおれとしては、

負けるわけにはいかんな。

さぁ読みかけの本でも取り出して読もうかな。

そのうち隣りの個室も空くやろうしな。



いや、ちょっと待てよ。

もしこれが逆の立場やってみ?



……僕は今、街の中で脂汗垂らしながらトイレを探している。

たまたま入った中華料理店で注文した四川ラーメンが、

びっくりするほど辛かったので、胃腸が悲鳴をあげている。

やばい……

幸いにして大型商業施設が目に飛び込んできた。

焦る気持ちと便意を抑えつつ店内へ入り、トイレの表示を探す。

うおぅっっ

突然、猛烈な痛みが下腹部を襲う。

僕は歩みを止めて、それをやり過ごさなければならない。

周囲にばれないように、あくまでさりげなくだ。

とっさに僕は目の前に陳列されていた財布のひとつを掴み、

興味のあるふりをする。

しばらくすると、波が去っていく。

C◯MME CA DU M◯DEの店内は少し忙しいらしく、

「わたしもそれ持ってるんですよぉ〜」

と無邪気な店員が話しかけてくるという最悪の事態だけは免れた。

そっと財布を棚に戻す。

急がなければならない。

どうやら僕に残された時間はほとんどないようだ。

半分引き攣った顔で歩を進めながらも、下腹部を刺激しないように歩いていく。



ふぬぬぬっっっっ

容赦無く襲いかかる荒波に、

可も不可もなく立ち止まると同時に、

すかさず僕はまたウィンドーショッピングを装う。

が、最悪なことにそこはレディースの下着売り場の前だ……

僕はとっさに携帯電話を取り出して、メールを読むふりをする。



ふうぅっっっ

なんとかやり過ごした。



こうして幾たびかの試練を乗り越え、

ようやく僕はトイレの前までたどり着くことができた。

しかしここで安心することなく、

ミッションコンプリートしなくてはならない。

あと1mmでも油断するとたちまち僕は濁流に飲み込まれてしまうだろう。

洋式かつウォシュレット付きがベストだが、この際和式でもいい。

とにかく緊急事態なのだ。




し、しかし……空いてない(汗)

トイレの個室はどこもいっぱいだ。

しばらく洗面台のところで待っていたが、

まったく出てくる気配もない。

まさか本読みながら入ってる奴なんかいないだろうが……長すぎる。




よーしこうなったらノックしてやろう。

はっきりとプレッシャーをかけてやるのだ。

こうなったらなりふりかまってなどおれるはずがあろうか?

いやあるはずもない!

なぜなら今おれは切羽詰まっているのだから!!



コンコンコンッ


……やっぱり必要ですねこれ。