サービスエース
中学高校と合わせて6年間
双子の兄とテニス部でダブルスを組んでいた。
顔だけではなく、技量も同じのため仕方がないといえば仕方がないが、
このペアリングはどう考えても顧問の先生の面白半分で決められた気がする。
ところで今、振り返って考えてみると中学時代は、
僕ら双子にとって暗黒時代であった。
同じ部活に入るくらいだから、けっして仲は悪くなかったのだが、
当時の僕らは、お互いに足を引っ張り合うことに命をかけていたのだ。
思春期バリバリの僕らは、「イキる」ことに超敏感であった。
「イキる」とは、広辞苑によると……
いき・る【熱る・熅る】
(1) むし熱くなる。ほてる。いきれる。
(2) いきまく。りきむ。
ことらしい。
これは双子症候群と言ってもいいのではなかろうか?
鏡で見ずとも自分の姿がありありと目の前に見えてしまうというのは、
いろんな弊害を産む可能性を孕んでいるのだ。
それは自己嫌悪になる感覚に近いのかもしれない。
で、相手が少しでもイキろうものなら、
たちまちすっ飛んできて「ハァァァアアアアア」
(↑文字ではこのニュアンスが伝わらないのが残念ですが、
それはそれは不快な言い回しなのです。)
と、相手を指差して冷やかすのです。
風呂上りにちょっと鏡の前で立っているだけで、
「ハァァァアアアアア」と言いがかりをつけられ、
ちょっと女の子と話しているのを見つかったりした日にゃあ生きた心地がしなかった。
それは段々とエスカレートしていき、しまいには相手が体操服の腕まくりをしているだけで、
「ハァァァアアアアア」と袖口を指差し、全力で冷やかしていた。
若い僕らは、相手のミスも許すことができなかった。
テニスの試合中にケンカなんてしょっちゅうやってたし、
コートチェンジのときなんて絶対、お互いに違うサイドから
向こう側のコートに行ってたもんね。
そういえば、しまいにはサーブも兄めがけて打ってたわ。
幸いにして(?)僕は後衛をやっていたので、
狙われることはなかったが、今考えると相当めちゃくちゃだ。
そしてそんな時に限って……兄の後頭部を狙ったはずなのに
すんごいいいサービスが決まったりするのよね。
サービスエースっていうの?
複雑な気持ちなんだけど、あれはあれで気持ち良かった。
しかし自分が前衛じゃなくって良かったと、つくづく思うよ。