中2男子のトキメキ五寸釘[最終話]

さて、シャイでウブな中2男子にとってバレンタインデーは、なるべく係り合いたくない日だった。

決してモテたくないわけではなかったが、双子の兄に見つかったりした日にゃあ一気に奈落の底に落ちる危険性があるのだ。

(一卵性双生児の僕らは当時、ちょっとカッコつけただけで冷やかしたり、足を引っ張りあうことに命を賭けていた。)

朝起きたら、いつもは行かないくせにその日だけはポストへ新聞を取りに行く振りをして、チョコや手紙のたぐいが入ってないか確認する。

どんだけ自意識過剰やねんと思うでしょうが、すべては双子の兄に先手を打たれないようにするため……。

そしていざという時に、兄に先手を打つため……。


さて、(当然だが)ポストにも学校の下駄箱にも机の引き出しにも放課後の教室にも学校帰りの路地にも何の異変も起こらないまま家に帰ってきた僕は、ご飯を食べ終えたリビングで、アニメ『陽当たり良好』を見ていた。

ジリリリーンと台所にある電話が鳴った。洗い物の手を止めて、母が電話に出たようだ。

ヒロインかすみの揺れ動く乙女心が切ない。

かすみの大学生の彼氏である克彦の大人びた態度が、単純で一直線な主人公勇作とは対照的でかっこいいのだ。こういうのを確か三角関係って言うんだよな。

しかしオカンの声はでかいな・・・こっちはいいところなんだからもうちょっと・・・

「タカシ〜!本橋さんから電話やで〜。」

・・・え!?

完全に油断していた。っていうか、本橋さんってエリちゃんのこと??

ひょ、ひょっとして?

今日は?

例のアレを?

そ、そうなの?

とドキドキしながら席を立つ。

一瞬ハッとして、双子の兄の顔をチラっと見る。

どうやらアニメに夢中になっているようだ。

いや聞こえないフリをしてくれたのか?

ホッ・・・。


「も、もしもし・・・?」

ちくしょう声が完全に震えている。がしかしどうしようもない。咳払いをする間も与えられずに、受話器の奥からはエリちゃんの声が聞こえてきた。

「あ。わたし本橋だけど、今から10分したら家の外に出てきてくれる?」



多分だけど、その時の僕は右手と右足を同時に出して歩いていただろうと思う。

ドギマギしながらリビングに戻る。


テレビの中では、主人公の勇作とヒロインかすみが、いつものように何やら言い争いをしているようだが、まったく内容が頭に入ってこない。

かすみの乙女心なんかよりも僕の心のほうがよっぽど揺れ動いているのだから。


「う〜ん。ちょっとトイレ行ってくるわぁ・・・」

完全に棒読みだったが、これもまた双子の兄は無視してくれたようだ。


薄着のまま外へ出てきてしまったので、寒くてしょうがないはずなのに、なぜだか肌寒さは感じなかった。

というか、今や僕の中のどんな感覚も鈍ってしまっている。

ただただドキドキしていた。


しばらくして自転車でやって来た本橋エリちゃんは、一緒にやってきた友達のマサヨちゃん(仮名)に、チョコと手紙を渡すよう促し、僕にこう頼んだ。

「浜野君(実名)に電話してくれへん?10分後に行くから家の外に出てほしいって言っといてね。」


マサヨちゃんから貰ったチョコと手紙をとりあえず、車の下に隠した僕は、何事もなかったかのようにリビングへ戻る。

もちろんアホの勇作とアバズレかすみの行く末なんて、fuck'inどうでも良かった。

おしまい。

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