むじ
MUJIへ行った。
レジ近くの棚で商品を見ていたら、レジにいる女性客の声が聞こえてくる。
「店員さんめっちゃオシャレですよねー。」
「前からずっと思ってたんですぅー。」
「着こなしもすごくいいですよねー。」
こちら側からレジの方は死角になっていて、二人の姿は見えないが、どうやらその女性客は、レジの女店員のファッションがとても気に入っているらしい。大きな声でしきりに褒めている。しかも以前からそう思っていて、どうもその女店員に話しかけるタイミングを図っていたようだ。
清算が済み、目的を果たした女性客が、(多分だけど)うれしそうに帰って行ったので、僕はお気に入りの『ぶどうのクッキー』を買うために、レジへ向かった…。
さぁ見せてもらおうか?
あんたがどれだけオシャレなのかを?
ドクドクッ
(え?な、何っ?この胸の高まりは何??)
ドクドクドクッ
(もし恋に落ちたらどうすんのさ?)
ドクドクドクドクッ
(タカシっ!戻るなら今だぞ!後戻りできねっぞ!!)
ゴクリッ
(タカシはそっと指輪を外してレジへ向かった……。)
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[画面替わって収録スタジオへ。お昼の情報番組のようだ。]
女子アナ「ははははー。もお私これでも一応女の子なんですからねー。それでは現場にいる田梨さんと中継が繋がっています。田梨さーん?」
田梨レポーター「はーい!わたしは今、高砂市のサンモール二階にあるMUJIさんにおじゃましていまーす!」
女子アナ「田梨さーん?」
田梨レポーター「はいはい?」
女子アナ「今日はどうしてそちらに?スイーツかな?」
田梨レポーター「いえ。実はこちらMUJI高砂店には、とても素敵な店員さんがいるとお聞きしたんです!あっ!ちょうど今、お店から買い物を済ませたお客さんが出てきました。さっそく聞いてみましょう。……すみませんちょっといいですか?」
男性客「は、はい?何か?」
田梨レポーター「今日は何を買いに来られたんですか?」
男性客「えーと、この『ぶどうのクッキー』ですね。」
田梨レポーター「あぁこれ!おいしいですよねー。私も大好きです。ところでこのお店に素敵な店員さんがいらっしゃるとお聞きしたんですが、どうでしたか?」
男性客「え?ただただMUJIな店員でしたよ。」
田梨レポーター「あれ?違う店員さんかなぁ。」
男性客「いえ今日は平日だからひとりしかいませんでしたね。」
田梨レポーター「素敵な着こなしをする店員さんがいるっていう投稿が番組にあったんですが……。」
男性客「だからMUJI以上でもなく、MUJI以下でもないですよあんなもん。」
田梨レポーター「そ、それもそうですよね……ここはMUJIですもんね。ハハ、ハハハ。スタジオへお返ししますっ!」
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いっとくけど、MUJIさんは悪くないですよ。
例えば魚屋さんに行って……
「店員さんめっちゃいい包丁持ってますよねー。」
「前からずっと思ってたんですぅー。」
「捌き方もすごくいいですよねー。」
って言ってるのと同じというか、それわざわざ大きな声で言う必要あるのか?褒められる方も微妙な気持ちになると思うのよ。しかもそれを他の客に聞かれて値踏みされるなんて………迷惑この上ない!!(期待してレジ行って損したわ。俺のトキメキ返せ。ペッ!)
ちなみにMUJIとかUNIQLOなどの自社衣料を制服替わりにしているところは、えてして店員さんが時計にこだわっていることが多い。唯一、自己主張ができるのが時計なのだろう。中にはすごく個性的な時計を装着していることも珍しくないのである。
おわり