運行管理者

運行管理者という資格がある。

運行管理者とは、バスやタクシーそしてトラック会社で運転手さんの点呼や乗務割りをするなどの他、全般的に運行の安全を確保するための業務を行う。

時と場合によっては指導や監督も行う。

中には海千山千の運転手さんもいらっしゃるので、なかなか一筋縄ではいかない仕事なのだ。

僕が5年前まで勤めていた会社には、バスやタクシーの運輸部門があり、そこで僕は運行管理者の資格を取った。

そして現在の職場にも貨物営業ナンバーを付けた車が1台だけあるので、2年に一回は運行管理者の一般講習というのを受けないといけない。

さて、先日行ってきた講習の中で、ドラマ仕立ての運行管理者物語があって、なかなか面白かった。




……主人公は、△△運送会社に勤める藤堂さん(推定年齢45歳)。

運行管理者の資格を持つ藤堂さんが副所長として、○○営業所に配属されるところから物語は始まる。

着任の挨拶が終わるや否や、藤堂副所長は運転手さんの受けた適性診断の結果を片手にビシビシと指導を行う。

「君は感情の起伏が激しいから、このままだと事故を起こす可能性がある。」

だとか、

「さっき車の中を見せてもらったが、君はまず車の中を片付けることから始めたほうがいいね。この適性診断書にも雑な性格だと書かれている。」

だとか、とにかく威圧的に吠えまくる。藤堂副所長は、本社での管理能力を高く評価されて、最近事故の多い○○営業所に配属されてきたので、多いに張り切っているのである。運転手への押しの弱い山田所長からの期待も高い。



さて威勢がよくてコワモテのトラック運転手さんの土門さんは、この新しくやって来た副所長がどうも気にくわない。

土門さんは運転手の中でもリーダー格なので、次第に他の運転手さんも藤堂副所長のことを倦厭し始め、やがて営業所の中は殺伐とした雰囲気になってしまう。

ある日、歩行者から土門さんの運転に対する苦情(どうやら一旦停止をせずに交差点へ進入したらしい)が入り、藤堂さんは土門さんを呼びつけて注意を行う。

もちろん藤堂副所長の手には、土門さんが受けた適性診断の結果が握られている。

「俺はちゃんと一旦停止してるよ!それにそんな薄っぺらい紙切れと、俺たちの言うことどっちを信用するんだよ!」

土門さんは声を荒げて藤堂副所長に楯突く。




「君のような自分の運転に自信たっぷりなタイプこそ、取り返しのつかない事故を起こすんだよ!」

適性診断書をめくりながら負けずに指導しようとする藤堂副所長に、土門さんは次のように言い放つ。

「おまえら運行管理者は、営業が仕事とってきて、そしておれらドライバーが汗かいて運んだお金の中から給料もらってんだろ?」

藤堂副所長は言葉に詰まり、それ以上何も言い返すことができなくなってしまった。



ここらへんで、さすがに熱意の空回りを感じた藤堂副所長は、自分の悩みをある取引先の部長に打ち明ける。

この取引先というのが、例の適性診断を取り仕切っている会社で、そこの部長は藤堂副所長にぜひ「適性診断活用講座」を受講するようにすすめる。

*1

藤堂副所長はさっそく適性診断活用講座を受講することになる。そこでこれまで自分のしてきた勘違いを反省した藤堂副所長は、別人になったかのような表情で職場に現れる。

四角四面に適性診断書の結果を振りかざすのではなく、一人一人の乗務員と向き合い、対話をし始めたのだ。*2



ある日、再び土門さんに対するクレームが入った。

どうやら得意先の工場内での一旦停止を怠ったようだ。藤堂副所長は別室へ土門さんを連れていく。

適性診断書を手に持つ藤堂副所長を見て、土門さんは逆ギレする。

「いいかげんにしてくれよ!なんだよそんな紙切れ!!」

藤堂副所長は、適性診断活用講座で習ったことを思い出し、相手に威圧感を与えない位置に座り直してから、静かに切り出す。

「そうだよな。でもな……お前はこの結果を客観的に見てどう思うんだ?教えてくれないか。」

これまでとは様子が違う藤堂副所長に気づき、土門さんは首を傾げる。

そしてひたすら真摯な態度で語り続ける藤堂副所長に、徐々に心を開き始める土門さん。

気がつくと土門さんの顔つきも穏やかになり、ウルウルした目で藤堂副所長を見つめこう言った。









「藤堂さん!俺決めたよこれからは必ず一時停止するよ!」


*3



喜ぶ藤堂副所長に、土門さんは話しを続ける。




「実は最近女房ともうまくいってなくてさ……。」

*4






別室から出て来た2人の完全に和解した姿を見て、山田所長が満足そうに頷く。



あれほど殺伐としていた営業所の空気もやがて和気あいあいとしてきた。

土門さんの後輩運転手が駆け寄ってきて、

「副所長、今度は僕の悩みも聞いてくれませんか?」

と言ってくるほどに信頼関係が築かれている。



そしてその後も、きちんと一旦停止を守り続けた土門さんは、すんでのところで飛び出してきた子供を跳ねずに済んだ。




赤い夕日が西へ沈むのを見ながら、山田所長が満面の笑みを浮かべるのであった。

*5

fin.

*1:さてそろそろお気づきかと思いますが、この物語は適性診断の実施機関が作ったDVDで、自社コンテンツのPRになっています。「適性診断活用講座」は、運行管理者向けの講座で、適性診断書を運転手さんの指導にうまく活用するための講座のようだ。

*2:しかしあくまで適性診断書は手放さない藤堂副所長っ!

*3:なんやねん!コワモテのおっさんが、「これからは必ず一旦停止するよ!」ってなんやねん!?「もう二度と覚醒剤には手を出さないよ!」とかなら分かるけど?全然決まってないねんけどーっ!

*4:おいおいちょっと待て!そこまで心開くのか?いいのか?安易すぎやしないか!!

*5:な、な、なんやねん!山田所長おいしいとこ持って行き過ぎやろ!?裕次郎気取りか!?てか誰がこれ見て適性診断活用講座を受けようと思うねん!?違和感だらけや!舐めるな!!

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