ホクロ
僕は双子だ。
しかも一卵性双生児というやつで、特に小さい頃は本当に瓜二つだった。
今、小学生やそれより小さい頃の写真を見てみると、自分の目ですら僕ら二人を見分けることには困難を極める。
ほらこの写真なんて、まったくのお手上げだ。これは盆踊りのときの写真だろうか?このような祭りなどの特別なときだけでなく、普段も同じ服を着せられたりするもんだから、見分ける手立てもないのだ。
家族や仲の良い友達は、顔だけで見分けがつくらしくて間違うことはなかったが、年に一度のお正月くらいしか会わない親戚のおっちゃん、おばちゃんなどにはさっぱり見分けがつかなかったようだ。
「どっちや?」
新年の挨拶もそこそこに僕らの顔をニコニコしながら見つめる親戚のおばちゃんは、そう言ったかと思うと、僕らが答えるよりも先に、僕らのどちらかいっぽうの顎を掴んで上へ持ち上げた。
「タカシか?」
(ぐいっ)
「ああヒロシの方やったか……残念。」
僕の首には割りと大きめのホクロが有り、おばちゃんはそのホクロが有るか無いかの確認をしたわけだ。それが唯一の二人を見分ける方法であるのである。
首にホクロが有れば「タカシ」で、無ければ「ヒロシ」。
しかし見分けがつくのは、そのときだけである。ちょっと目を離すと、じきに分からなくなってしまう。
「あれ?どっちやったかな?」
(ぐいっ!)
「おっ!やっぱりタカシやったか。」
満足そうに笑うおばちゃん。
そして、おせち料理を食べながらしばしのご歓談……その周りを暇を持て余した僕らが、ぐるぐる走り回る
「そうや!あんたら、お年玉やるわ。こっちおいで!」
(ぐいっ!)
「えーとこっちがヒロシやな。」
……と、まあこんな調子で、僕らの首のホクロ探しは、親戚のおっちゃん、おばちゃんたちと一緒に過ごしている間に何度も何度も繰り返された。
さて僕にとってこのホクロ探しは、満更悪い気はしなかった。だってホクロが有る方が、なんだか「当たり」っぽいじゃないか?それに僕のそのホクロは大きい上に立体的でもあり、体の小さかった僕にとってはちょっとした自慢でもあったのだ。ヒロシには無くて、僕には有るというのもヒロシに対してアドバンテージを握れるうれしいことだった。(僕らはライバル関係にもあったのだ。)
顎を持ち上げられる度に僕は……
(ぐいっ!)
「どう?有ったでしょ?」
(ぐいっ!)
「ほら僕のホクロでかいでしょ?」
……と、心の中で優越感に浸っていた。
しかし小学生も高学年にさしかかるころ、予想だにしないことが起こってしまう。
あるひとりの親戚のおっちゃんが、ヒロシの左の頬っぺたにホクロを見つけたのだ。
「あっ!ここ見てみ?ホクロが有るわ!!」
ドヤドヤと親戚のおっちゃん、おばちゃんたちが集まってくる。
「あっ!ほんまや!!」
僕も一緒になってヒロシの頬っぺたを覗いてみると、確かに小さなホクロがひとつ有った。まぁでもそんな小さいホクロのひとつやふたつくらい探せばどこにでも有るっしょ?それに比べて僕の首のホクロは立派なもんだよ??試しに大きさ比べてみる?
「左の頬っぺたにホクロの有るほうがヒロシや!」
最初にヒロシの頬っぺたにホクロを見つけたおっちゃんが、高らかにそう宣言した。
「今までごめんなぁ。上ばっかり向けさせられて嫌やったやろう?でもこれからはもう顎上げてもらわんでもええでなぁ。」
ひとりのおばちゃんが気の毒そうな顔をしながら、僕に笑いかける。
ヒロシのなんの取り柄もないそのちっぽけなホクロは、一気に市民権を得た。
いや……市民権を得ただけでなく、一気に主役の座を奪っていった。
その後、お正月に親戚のおっちゃん、おばちゃんが来る度に、頬っぺたのホクロを見つけられると、ヒロシはとてもうれしそうな顔をしていた。
僕は「有る方」から、「無い方」へと転落した。
そうして僕の首のホクロは、月日と共に皆に忘れ去られていった。
あれから30年が経つ。
僕のホクロは、
返り咲く日が来ることを待っている。
完