イベント

僕がある町の主催するイベントに出店者として参加し出して5年目になる。

今年は数日前から雨の予報だったので憂鬱だったのだが、当日の搬入が済んだ頃にはなんとか雨も止んでくれイベントは多くの人で賑わった。僕の出店しているブースにも次から次へと家族連れなどがやってきて、対応に追われた僕らがようやく昼ごはんを食べることができたのは2時半を回ってからだった。

「こんにちわ。覚えてる?」

パイプ椅子に腰掛け、一息ついていると、いきなり綺麗な女性に話しかけられた。

ちなみに僕は人の名前や顔を覚えるのがとても苦手だ。

「もちろん覚えてますよ。」

こんな綺麗な女性に恥をかかせるわけにはいかない。だから僕はとびっきりの笑顔で応えた。しかしほんとはほとんど覚えていなかった。そのうちに思い出すだろう……と、問題を先送りにした僕は頭をフル稼働して記憶を辿っていった。彼女はいかにもやり手の雰囲気を醸し出している。洋服のチョイスもなかなか洗練されていて………はて仕事関係の知り合いだったか?それとも個人的な知り合いだったか?

い、いや待てよ。これは……

彼女がふと横を向いたその瞬間、僕の視線は彼女のある部位に釘付けになっていた。それを目にした瞬間僕の頭の中は、難解な知恵の輪がするすると解けるように、彼女のことを思い出していった。彼女は、うちの職場の関係者の知り合いだ。彼女のことはちょうど一年前のこのイベントで、その関係者を通じて紹介された。確かその関係者の高校時代の同級生で、地元のラジオ局で仕事をしている。

いやらしい男性諸君の中には、「どうせ彼女の胸が大きかったから思い出したんだろう。」と思っている方がいるかもしれない。しかし違う違うのだよ。その部位とは鼻だ。鼻の穴だ。いや鼻毛だ。びょーんとまっすぐに伸びた鼻毛だ。これだけ余りある容姿とシャレオツのセンスを持ち合わせているというのに、その鼻の穴の中心部からはびょーーーんとまっすぐに……そう、あの日と変わらぬままに、彼女の無邪気な鼻毛は伸びていたのだ。

来年もまた会えるのだろうか?

あの鼻毛に……。


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私がある町の主催するイベントに出かけるのはこれで2回目になる。

イベントには高校生時代の同級生が出店していて、今年も彼にメールで誘われたのでやって来たが、私のお目当ては芦屋のフレンチレストランが出している鹿肉の燻製だ。明日、友人宅で行われるパーティーに手土産として赤ワインと一緒に持って行ってあげようと思いついたのだ。

朝、トイレに起きた時には降っていた雨もすっかり上がり、二日酔いの頭もだいぶ楽になっていた。今週は仕事でお世話になっている人の出版記念パーティーや番組の打ち上げなど連日のようにお酒を飲む機会が続いている。今日こそ夕方からエステサロンと岩盤浴へ行って、溜まった疲れを削ぎ落としてやろうと考えながら、B級グルメの並ぶブースを過ぎて、まずは高校生時代の同級生が出店するブースを覗きに行ってみることにした。彼には高校3年生の冬に告白されたことがあるが、そのときの私には大学生の彼氏がいたので振ってしまった。それ以来、彼はどうも私の言葉を真に受けているようだ。そう、「友達としてなら……」というお決まりの断り文句だ。まさか20年以上も友達付き合いをすることになるなんて、そのときには思いもしなかったが、私と同じでガラス工芸が好きなこともあり、ときどきこうやって会いに来る。彼は40も半ばを過ぎて、独身らしいが、まさかまだ私に未練があるのかしら……かくいう私も今だ独身なのだが………

彼の出店ブースを覗いたが、そこに彼の姿はなく、これは昼ごはん奢ってもらいそこねたかなと考えていると、見覚えのある顔が奥に見えた。

「こんにちわ。覚えてる?」

確か去年のこのイベントで、彼に紹介してもらったお兄さんで、色々と話しをしたからきっと覚えてもらっているはずだ。

「もちろん覚えてますよ。」

お兄さんはニコニコしながら、私に空いた椅子を勧めてくれた。ちょうど休憩中のようだったので、気兼ねなく座らせてもらうことにした。私より10歳くらい若いのかな。あれ?去年はこんな丸メガネだったかしら……。

ちょっと待って、これは……

お兄さんがふと見上げたその瞬間、私の視線はお兄さんのある部位に釘付けになっていた。やだ、そんなんじゃないわよ。その部位とは鼻よ。鼻の穴よ。いや鼻毛なのよ。びょーんとまっすぐに伸びた鼻毛なのよ。確か去年も伸びてたわよ。やだわ、んもう。




おしまい。

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