結婚式

ひさびさに結婚式に呼ばれて、香川県へ行ってきた。のだが、これまでにない、ある感情が芽生えていることに戸惑いを覚えた……あろうことか、式場にしなやかに入ってくる新婦と自分の娘の姿を重ねてしまったのだ。

またある場面では、新郎と息子の姿を重ねてしまっている自分がいた。



迂闊にも、お父さんに感情移入してしまっていたのだ。もはや、自分が完全におっさんの領域に足を踏み入れてしまっていることに狼狽えた一日であった。

おっと、本題はここからだ。

僕がこのように、ひとりで勝手にとはいえ、未来を想像して感傷的になっているというのに、ひとりのあるおっさんにより、そのセンチメンタルな気持ちはぶち壊されてしまった。

そもそもそのおっさんのことは、式場に着くなり、「うわっ!コイツうっとおしそうやなー!」と思っていたのだ。

そのおっさんと僕とのファーストコンタクトは、受付だ。習字が苦手な僕は、受付にボールペンしか置かれてないことにホッとしていた。いつもより心に余裕を持って、芳名録にゆったりと記帳していたら、首筋になんだか違和感を感じたので、僕は振り返った。するとそこには「目」があった。これだ。


そのおっさんは、このメガネをかけて、受付のすぐ横に立ち、式場にやってくる人々にひたすらアピールしているのだ。

「どうこのメガネ?」、「俺って面白いでしょ?」

僕は、この手の冗談(にもなっていない悪ノリ)が大っ嫌いなので、自分の持ちうる最大限の冷たい目でおっさんを見つめた。だって、おっさんはまったく面白くないのだから。




そしてセカンドコンタクト……





「まもなく式が執り行われますので、皆様どうぞ会堂の方へお進みください。」

ロビーから結婚式が行われる会堂へ移ると、すでに多くの人で座席は埋め尽くされており、僕は最後部の空席へかろうじて座れる場所を確保した。

間も無く自分のとった行動を後悔した。よりによって僕の隣にはさっきのあのおっさんが座っていたのだ。おっさんはまだあのメガネをかけたままでいてる。

だーかーらー、それまったく面白くないのよ?わかってる?

年は40代中盤だろうか。中年ならではの小肥りの身体つきをし、長く伸ばした髪を茶色に染めている。その広がり始めた額には、汗で髪の毛が数本張り付いていた。

困ったことにそのおっさんはことあるごとに、大声でツッコミを入れるのだ。新婦を連れ添い入場してくる新郎に向かって……



「ちいさっ!!」



誓いのキスの前に……



「コントかよっ!!」





ここで少し説明を加えねばならない。新郎は新婦よりも背が低い。また新郎の生まれながらのボケたくてしょうがない症候群により、各所に突っ込みどころが満載の式だった。ちなみに、先ほどの「コントかよっ!!」というツッコミは、誓いのキスを前に、新郎が踏み台を探して持ってくる場面に対して放たれた。



これは確かにツッコミを入れたくなる気持ちは分かる。しかし、そのおっさんのツッコミのボリュームは、些かデカすぎた。新郎は所々でボケるものの一応、式は粛々と執り行われている。そのおっさんは、式場の最後部から、式場全体に聞こえるほどの声でツッコムものだから、だんだんと耳障りになってくるのだ。

普通、ツッコミというのは「笑いを足す」「笑いを促す」役割があるはずなのに、これでは逆効果だ。

しかも、どうやら内輪の人間ですら持て余しているのだ。そのツッコミを。その存在を。つまり、そのツッコミはまったくウケてないのだ。内輪にすら!!

しかし、おっさんは自分では良かれと思っているようで、前列の人が顔をしかめながらそのおっさんの方を振り向いても、いっこうに改めようとしない。そのおっさんはまったくと言っていいほど空気が読めないのだ。そればかりか、今日はツッコミ役に徹すると決めたようで、式が終わり、披露宴会場に移ると、お酒も入り、そのツッコミはますますエスカレートするばかりだ。

「何の話しやねんっ!」

「テキトーかよっ!」

「えっ!ヤンキーなん?」

「どういう展開なん?!」

金八先生!はようっ!!」

おっさんが、あまりに邪魔なので一度、睨みつけてやったら目があった(いつの間にか、おっさんはメガネを外していた)のだが、そのおっさんはまさかのドヤ顔でこっちを見てきた……ウ、ウケてると思ってるのか?





ていうか、おいっ!新郎ボケすぎやねんっ!!



そのおっさんに腹が立ちすぎて、温かく見守ってあげなくてはならない立場の新郎のことまで、しまいに憎たらしくなってきたのであった。






おしまい。