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土曜日の夜

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大阪湾の泉大津フェニックスという埋立地で行われた “ OTODAMA音泉魂 ” という野外音楽フェスの会場からの帰り、大阪の梅田の外れでバスを降ろされたので、どうも方向がわからなくて道行く人に聞いた。



僕「すみません。阪神電車の駅はどこですか?」



A「えっ!?は、阪神!?あっちかなぁ……」



しばらく歩いてから、今度はおじさんの2人組に道を聞いてみる。さっき歩きながら携帯電話の乗り換え案内アプリで調べたところ、終電まで時間があまりない。気持ちが焦る。



僕「すみません。阪神電車の駅はどこですか?」



B「え?阪神??知らんなぁ。」



C「うーん。あっちやったんとちゃうかなー?まっすぐ行ってから右曲がってみ?」



どうやら梅田界隈の人たちは阪神電車にはあまり乗らないらしい。その道案内には不安を感じたが、このまま進むしかない。一日中、野外で最高の音楽を聴き、踊り、歌って過ごしクタクタだったけど、僕は体にムチをうってできる限りの小走りで駆けた。



さて、駅も見つかりなんとか混み合う終電のシートにお尻を滑り込ませることができた僕は、ホッと一息ついた。今夜のライブの余韻に浸りながら、ラストを飾った僕の大好きなバンドのセットリストを思い出してみる。ふと斜め向かいに座っているお兄ちゃんに視線を飛ばすと、向かいの席のほうをものすごい形相で睨みつけているではないか?ただならぬ雰囲気に、その睨みつけたあたりを見ると……いや、正確には見るまでもなく、その理由がわかったのだが……そのお兄ちゃんの向かいに座っているおばちゃん3人組のしゃべっているのがめちゃくちゃうるさいのだ。歳は50前くらいだろうか?それぞれが好き勝手に、自分の住んでいる家の話や家族の話をしている。驚くべきはその話すスピードだ。早くしゃべる人のことを「機関銃のようにしゃべる」とかって表現するが、まさにそれ。しかも3人ともが機関銃のようにしゃべるもんだから、凄まじいことになっている。

3人組は斜め向かいに座るお兄ちゃんの睨みつけにもまったく気づかない素振りで、のべつくまなくしゃべる。しゃべる。しゃべる。酔っているのだろう、声もでかい。でかい。ほんとでかいのだ。そのお兄ちゃんの向かいに座っているということは、つまり僕と同じシートの左手2つ隣りに座っているわけで、しばらくすると僕も睨みつけてやりたい気持ちになった。3人ともほんとうるさくて、頭が痛くなってきた。しかし、よくそんなに舌が回るよな。

話の内容を聞いていて、(聞きたくもないが聞こえてくるのだ。)僕が更に驚いたのは、「あの人、早口で何言っとんのかわからんからなぁ。がはははは。」とその中のひとりが言ったことだ。この人たちにも聞き取れないくらいの早口とは、いったいどんな早口なのか?想像するだけで恐ろしくもあるが、その人に会ってみたい。とも思った。もちろん遠くから見るだけで、お近づきにはなりたくはない。

また、違うひとりが言う。

「一度、旦那の仕事の都合で、姫路に家を借りたことがあるんやけど、あそこらへんは土地柄がなぁ……。」と姫路をディスっていた。僕はすかさず心の中で突っ込む。



「おいおい、お前らにはお似合いやろがっ!」


ごほん。姫路の人、失礼しました。姫路には住んだことがないので、姫路がどんな土地柄なのかは僕にもよくわかりませんが、同じ播州地方に住む身なので、なんとなくその土地柄への想像がつきます。


その後もしばらく、「あそこらへんは埋め立てやからなぁ。」とか言って、おそらく自分たちの住む町の、ある特定の地域をディスったりしている。着ている服や髪型へのお金のかけ方から見て、その3人組はそこそこお金持ちではあるのかもしれない。しかし、僕は思った。



「おいおい、阪神電車に乗っとる時点で、底が知れとるんやから、あんまし人のこと言うなよな!」



ごほんごほん。阪神電車沿線に住む人、ごめんなさい。実際のところは知らないのだが、(大阪と神戸の間をJRの他に2つの私鉄電車が走っていて、)少し山手の方を並行して走る阪急電車沿線と浜手を走る阪神電車沿線では、住んでいる人の所得が全然違うのだと、その辺りに住んでいる人から聞いたことがある。そして、ひと昔前まで、阪神電車には、酔っ払いしか乗ってなくて、おまけに床はゲ◯と競馬新聞が其処彼処に転がり、若い女の人は怖くて乗れなかったそうだ。が、これも人から聞いた話であり、事実は違うのかもしれない。でも僕も阪神電車の延長線上に走る山陽電車沿線に住んでいるので、ガラの悪さと育ちの悪さはなんとなく想像がつくのだ。(ちなみに、阪急電車にはこの3人組のような「おばはん」は乗っていない。阪急電車には「おばさま」しか乗っていないのである。)



しばらくしたら、甲子園球場の見える駅で、その3人組は降りていった。車内に静寂が訪れる。その3人組が座っていた方の僕の左耳は、キーーンと鳴っているような感覚があった。大袈裟に言っているのではなく本当だ。そして、車内にいる他のみんなから「ホッ」という声が聞こえてきた気がした。そんな土曜日の夜だった。

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