銭湯

昔、京都に住んでいた頃、四畳半のアパート暮らしをしていた。風呂トイレ共同、共益費込みで、なんと月12,000円だ。この安い家賃からも想像できる通り、かなりのオンボロアパートで、大家さんはまったくといっていいほど、管理に力が入っていなかった。共用の廊下の隅には、いつも埃の吹き溜まりがあり、特にお風呂はほとんどほったらかしの状態で、できれば近寄りがたい雰囲気を醸し出していたので、僕はよく銭湯へ行った。

ある日のこと。

当時、よく一緒に行動していた友人のYと、たまにはいつもと違う銭湯に行ってみようということになった。電話帳を開いて銭湯の名前の響きだけで適当に選び、住所からそのおよその位置を調べた。(当時はまだ、google mapなんて便利な物はなかったが、碁盤の目のように並んだ京都の街は、どこへ行くにも不便はなかった。)市街地にあるその銭湯に行くために、僕らは住宅街の路地と路地の隙間に無理やり車を停め、銭湯までの道を音楽の話をしながら歩いて行ったのであった。



その銭湯に近づくと、入り口の側にたいへん目つきの悪い2人のお兄さんが、立ってタバコを吸っていた。入り口を防ぐようにして立っている2人がとても邪魔だったので、Yは少しイラっとしたようで、舌打ちをひとつしてから2人を睨みつけると、目つきの悪いお兄さんたちも負けずに僕らを睨み返してきた。とても鋭い目つきに一瞬ギョッとしたが、早く一日の汗を流したかった僕らはあまり気にせずにそのまま暖簾をくぐった。


僕らはサウナと水風呂が大好きだった。限界までサウナで粘り、サウナ内で息を止めてから水風呂に入るのが、当時の僕らの間での流行りで、そうしておいてから、水風呂の中でそっと口を開くと、サウナの中で充分に熱された空気が肺から気道を通り、「ポコッ」という音とともに熱気として出てくる(実際には、もちろんそんな音なんてしない。)のを感じるという水風呂の楽しみ方をYが教えてくれたのだ。僕はすぐにそれを気に入って、あれから20年近くが過ぎた今でも、水風呂に入るとついついやってしまう。


さて、番台で320円を払い、脱衣所に足を踏み入れた僕らはその場に凍りつくことになった。

なんと、そこにはあきらかにそっち系のお兄さんたちがたむろしていたのだ。たむろしているというより、ある2人をぐるりと取り囲むようにした布陣を組んでそこにいる。その布陣の中心にいる2人は、(いわゆる親分格なのだろう。)裸のまま真剣な表情で話し込んでいて、その周りを取り囲んだイカツイお兄さんたち2〜3人が、手に手にバスタオルを持って、その身体を拭いていたのだ。肩を、足を、腰を、そして股間をもっ!!そして、その周りに、またまたイカツイお兄さんたちが、着替えを手に手に待ち構えているのだ。それは、ものすごく異様な光景だった。もちろん、そこにいるそっち系のみなさんの背中や肩には、龍や般若がはりついていた。

……てことはですよ?あの表に立っていた目つきの悪いお兄さんたちはつまり、見張りの若い衆だったわけであり……ご、ごくり。さっき怒らせちゃったよね。やばくね?


僕とYは、たっぷりと寿命が縮む思いをしたが、かつてないほどの長風呂をしてから恐る恐る脱衣所へ行くと、もうそこには彼らの姿はなかった。水風呂を楽しむ余裕なんてまったくなかった。そして僕らが二度とその銭湯へ行くことはなかったのであった。



さてさて、銭湯って、「刺青お断り」ってところもあるけど、「刺青オーケー」なところもあるよね?これね、「刺青お断り」の場合は看板立ってるけど、「刺青オーケー」という看板は立ってないのよ。当然といえば当然なんだけれど、銭湯に入ってから、「あ!ここ、刺青オーケーやったんや……(恐)」ってことが、上述の京都での出来事以外にも何度かあったのよね。

せっかく金払って、しっぽりしに来ているのに、ヤクザと遭遇した日にゃあ、まったくリラックスできないじゃないか。金返せ!とも思っちゃう。


そんな銭湯に、子供と一緒に入ってしまった日にゃあ、もう最悪で「おっ、お父さんっ!あれ見てみ!背中に龍の絵が書いてあるねんでっ!めっちゃかっこええねんでっ!」と、本人に聞こえる音量で言われて、たっぷり冷や汗をかかなければならないのだ……。(←実話。)




僕が銭湯へ行くのは、サウナ後の水風呂で身体を冷やしたいだけなのであって、決して肝を冷やしたいわけではないのだ。



え?



違うよ?



だから、違うってば!!






うまいこと言おうとして、失敗なんてしてないってば!!









さて、話しを本題に移そう。






今回、僕が提案したかったのがこちらの制度なのだ!!







その名も、「ヤクザタイム」







ヤクザタイムとは……例えば16時〜17時半の時間限定でヤクザの入浴をオーケーとする制度なのである。


ヤクザ客に対する銭湯経営で、悩んでいたあなた!!これからは、もう悩まなくてもいいんです!!これまで諦めていたヤクザ枠からの入浴料も確保することができるのです!!さあ!!ぜひ!!!





い、いや、でもあれやな。入れ替えの時間帯に絶対鉢合わせるやん。アカンやん。サウナの死角とかにヤクザが粘ってないか、いちいち確認するのも面倒やな。






うーん。







せやっ!これどうや!?











「ヤクザデー」






毎月8と9と3の付く日はヤクザの日!!





これでもう、一般人との鉢合わせに悩む必要もナッシング!!このシステムを導入するだけで、一般人とヤクザの入浴を完全に分けることができるのである!!











え?






今、どんどん組が分裂してるから、ヤクザデーには、銭湯内がとんでもないことになるって?








いや、逆やで逆。組と組が、ヨリ戻しよるから、これマジで。









やってみ?