塩ラーメン

2年に一度受けなければならない某資格者の講習会があり、神戸の灘区へやってきた。前日、同僚に講習会が行われる場所を聞かれ、「あぁ、あそこいくなら◯◯◯っていう塩ラーメン屋に行きや!」と言われていた。同僚は、わざわざそのラーメンを食べるためだけに、その駅で降りるらしい。ときには並ぶこともあるという。

僕は、混んでいる店に行くくらいなら、コンビニで済ます方がマシだという性分なのだが、午前の部が11時半と比較的早い時間に終わったので、コレ幸いとそのラーメン屋に行ってみることにした。

そうだ。たまには食レポをしてみるのもいいかもしれない。

などと考えながら、混み合った講習会の会場の人混みをかき分け、人だかりができているエレベーターを避けて、非常階段を使う。トイレを済ませとこうと、2階で用を足し……と、玄関前から駅へ続く道には、すでに人があふれていた。小雨も降っていたせいか、心なしか皆んな早歩きだ。僕は、焦る気持ちを抑えきれなくなってきた。

そう。僕は、そこにいる(僕の前を歩いている)人が全員、同じラーメン屋を目指しているように思えてきたのだ。必然的に僕の歩くスピードも上がる。休憩時間は1時間あるとはいえ、これだけの人が殺到すれば、たちまち行列ができてしまうだろう。くそ。みんなやっぱりよく調べてるなぁ。暑かった夏も過ぎ、半袖一枚だけじゃ肌寒くなってきたこんな気候の日には、そりゃあもう美味いに決まってるだろうなぁ塩ラーメン。

駅の高架をくぐり抜ける頃、僕にはもう周りにいる全員が敵にしか見えなかった。次々と敵たちを追い越し、半ば小走りで進む。僕の脇と背中には汗が滲んでいる。しかし、今はそんなことはどうでもよかった。塩ラーメン。塩ラーメン。塩ラーメン。僕の頭の中には、塩ラーメンのことしかなかった。

ラーメン屋の手前の国道交差点の信号でひっかかってしまい、イライラしながら、目の前を走り抜ける車たちを睨みつけた。ふと、周りを見回すと誰もいないではないか。かつての敵たちはどうやら、ただの僕の思い込みだったようだ。信号が青になるまでに息を整えた僕は、交差点を渡り、折りたたみ傘をたたみ、先客がひとりしかいない店内に入り、塩ラーメンを啜ったのであった。










え?





食レポ?






あわてんなってー!







少しだけ時間を戻すね。






折りたたみ傘をたたんでから、先客がひとりしかいない店内に入り、カウンター席の一番奥に座り、塩ラーメンを注文し、水を一口飲んでから、このブログの前半部分をiphoneのメモ帳に書き付けていた僕の前に、いよいよ塩ラーメンがやってきた。






一口啜るなり、僕は心の中でこう叫んだ。















「うまっ!!」







おしまい。