授業参観

声はデカいし、やたらオーバーリアクションだ。何といっても全てにおいて芝居じみているのだ。キャラを作り込みすぎていて、見ていてしんどい。





その日は娘の授業参観日だった。一年生になったばかりの眩しい娘を学校で見れるのはうれしいものだ。僕は、ホームセンターで買ってきたばかりの深緑色のスリッパを履いて、教室へ向かった。はりきって早めに家を出てきたので、まだ授業は始まっておらず、僕が教室へ入ると、担任の先生が子供達に混じってワイワイ話していた。

娘の横顔が見えるベストポジションをキープした僕は、感慨深くその横顔を眺めていた。僕が来ていることに気づいた娘が、小さく手を振ってくる。僕はニッコリしながら、大きく手を振り返した。

「はいはーい!みなさーん!授業が始まる前に先生の話を聞いてくださーい。」

教室にいる保護者たちの濃度が強まってきたころ、先生が教卓に立って子供達に話しかけた。その女性の先生は、50前くらいだろうか。セミロングのストレートヘアに銀縁の眼鏡をかけていて、まさに「ザ・先生」といういでたちだった。そして、子供達に話しかけるときは、一音ずつゆっくりしっかりと発音した。

「今日はとても暑いので、上着を脱いでもいいですよ。脱いだ上着は、椅子にキチンと掛けておきましょう。でもね。授業中に、何度も上着を脱いだり着たりするのはやめましょう。暑い寒いを感じれるのは人間だけやねんで!知ってた?」

僕の娘を観察していると、すでに椅子に掛けてある上着を気にしている。娘はしばらく迷ったあとに、授業中は上着を着ないと決めたようだ。前から二列目に座った窓際の娘はとても小さくてかわいかった。

「みんなー!参観日やからって緊張してる?いつも通りでええねんでー!!緊張するのも人間だけっ!!

それにしても声のデカい先生だ。言いまわしもいちいちセリフっぽい。いつもこんな調子なのか?それとも父兄の前だから、気負っているのだろうか?僕が訝しんでいると、授業の始まるチャイムが鳴ったので、僕は時計を確認した。45分授業の間に、次男のいる4年生のクラスにもいかなければならないため、9時05分頃になったら今いる娘のクラスを離れなければならないな。

ふと気づくと、先生が手にタンバリンを持って、教壇に立っていた。あれ?算数の授業だと聞いていたのに、音楽になのかな?と思ったとき、先生がゆっくりと大きな声を放った。

「ブロックを机の上に出して!」

さっきまでガヤガヤしていた子供達の間に、急に緊張感が走る。子供達は机の中からブロックを取り出し、机の上に並べ出した。ブロックとは 、麻雀牌くらいの大きさで表が青色、裏面に赤色の丸いシールが貼ってある教材で、入学したときに “ おはじき ” と一緒に購入させられたわけのわからない物のひとつだ。




「セット!」




という先生の号令で、子供達はサササッと10個のブロックの青色を表にして、横一列に並べ始めた。



「セット!!」



もたついている子供に向かって、先生が鋭く声を放つ。そうして、全員の準備が整ったことを確認した先生は、まっすぐ正面を見据えたままタンバリンを叩く。


パンッパンッパンッ


子供達は、机の上に並べたブロックを必死にひっくり返している。僕のすぐ目の前に座っている子の手元を見てみると、10あるブロックのうち3つをひっくり返している。赤色のブロックが3つ、青色のブロックが7つという具合に……どうやら、先生の叩いたタンバリンの数だけ、ブロックをひっくり返す授業のようだ。ある意味本番でもある今日までに、何度も練習してきたのだろう。もたつく子もいるが、教室には一体感がある。先生の叩いた音の数だけ、うまくひっくり返すことができて、安堵感が広がる教室に、容赦なく先生の声が響き渡る。




「セット!!」




子供達は慌ててブロックをひっくり返して、青色の面だけが表になるように戻していく。僕の目の前に座っている子は、少し違うことを考えているようで、ブロックのひとつをゆっくり眺めていた。




「セット!!!」




すかさず、先生のヒステリックな声が飛んできた。その子は、ハッと我に返ってからすべてのブロックを元に戻した。少しの間をおいて、先生がタンバリンを叩く。何度も。




パンッパンッパンッパンッパンッ







「セット!」







パンッパンッ







「セット!」










パンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッパンッ









「セット!」









「セット!!」














「セット!!!」



















えーと、これはあれですか??




















犬の調教ですか?














先生、授業が始まる前にあれだけ「だって人間だもの」アピールしてましたやん?











先生の圧にヤラレたのと、娘が誰よりも手際よくブロックをひっくり返している姿を見て、なんともいたたまれなくなった僕は、45分授業の半分もジッと見ていることができず、教室を後にしたのであった。















おしまい

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