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長い長い一週間

兵庫県には、トライやるウィークという、中2が職業体験をするための課外授業がある。うちの職場でも、毎年5人ほど預かっている。みなさんお察しの通り、トライやるウィークの担当者はその一週間、中学生につきっきりで、他のことが何もできなくなる。そして、だいぶかったるい。ていうか、もう大変だ。大わらわだ。今年も5人の男子中学生を預かった。午前9時から午後3時までの間、息つく暇もなく、面倒を見なければならないので、その準備も含めると、受け入れる事業所の担当者にとっては、気の重たいイベントだ。

午後3時になって、やっと中学生が帰ってからも、一息なんてつけない。中学生が書いて提出してくる作業日誌には、「事業所の人からの一言」という欄があるので、翌日までにそれを書いておいてやらなければならないのだ。そないにあるかいな。しかも5人分もないない。伝えたいことなんてないから。かといって、全員に同じことを書くというのも、やりたくない。しかし、そんなことよりも、俺の机の上には、中学生の相手をしていた間に、あちこちからかかってきた電話の用件メモでいっぱいだ。また、こんなときに限って、ずっと不在だった俺の机には、上司が仕事の置き逃げをしている。ないないないない。ともかく、5人分も書くことなんかないからな。とか思いながら、なんとかして言葉を絞り出す。

さて、そんな長い長い一週間が、今日やっと終わった。中学生を事務所へ連れて行き、「一週間お世話になりました。」と挨拶をさせ、その後ろ姿を見守りながら、ホッとしたのもつかの間のこと、(別れを惜しむ余裕もなく、)この一週間にした作業の後片付けをするために、屋外をバタバタ動き回りながら、俺は遠くから、自転車で帰っていく5人の中学生に手を振った。ん?ちょっと待てよ……そういや、一番世話になってるはずなのは、担当者の俺やん?事務所の奴らの前で、わざわざ挨拶させたけど、事務所にずっといてた奴らは別に、そんなに世話してないやん?世話したんは、ほとんど俺やん?おいおい中学生よ、この俺に、ちゃんと挨拶してから帰って行けよな。



でもまぁそんなことは、中2には気がつかへんよな。俺の口から「はい、そしたら最後に、俺にお礼言うて!」って言うのもなんか変やしな。しゃあないか。

5人がやってきた月曜日の俺は、「こいつら使えんなぁ。」と、イライラしていたんだけど、金曜日の俺は、すっかり不器用な5人の中学生が可愛くなってしまっていた。隙あらば怠けようとするリーダーのO君。ニコニコしながらすぐ遊びに走ろうとするムードメイカーのE君。最初から最後までずっとダラダラしていたマイペースなM君。疑問に思ったことはすぐに質問してくる研究者肌のS君。5人の中では一番おとなしかったが一番真面目に作業をやってくれていたメガネのK君。

……とか、もうすでに懐かしく思いながら、中学生が控え室に使っていた部屋に戻ると、机の上にポツンとメモが残されていた。

きっとこれは、他の4人に遅れて、最後に帰って行ったメガネのK君の字だ。これを書いていたので、帰るのが遅れたのだろう。

皆を集めて、話しをしているときも、まっすぐに俺の目を逸らすことなく見つめて、キラキラした眼差しで話しを聞いてくれていた。そんなK君のまっすぐな目を見た俺は、ついつい、いい気になって、「社会人に必要なことは?」みたいなことを熱く語ってしまった気がする。いやはっきりと語ったな。この口で……あぁ自己嫌悪や。これではまるで俺、うっとおしいおっさんやん。



さて、メモはほんの一言だけだったんだけど、俺の胸にはかなり響いた。他の4人がそそくさと部屋を出てしまってから、あわててひとりで書いたくせに、個人名ではなく「byトライやる生」としているのが、また泣ける。こんな気の利く中2なかなかおらんで。

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