これが最後

家でテレビを見ていると、小4になる娘がすかさず俺の膝の上に載ってくる。娘が小さい頃からの特等席だ。娘は小柄なほうなので、ほんの少し前までは、何の苦労もなく俺の膝の上に収まっていたのだが、さすがに段々と収まりきらなくなってきた。
 
実は近頃の俺は、「あぁ、これが最後かもしれないな、、、」と思いながら、末娘との接触を愛おしんでいる。例えば、二人で近所のスーパーマーケットへ買い物に出かけた時に、何気なく手を繋いできてくれたときにも、これが最後かも、、、と、一人で勝手にしみじみしている。ちなみに、お風呂には既に一緒に入ってくれなくなった。
 
いつの頃からか、をお風呂に入れるのが、俺の役目になっていて、素潜り競争やお店屋さんごっこをしながら過ごすのがひとつの楽しみだった。いつまでも一緒に入ってくれるものではないとはわかっていた。わかってはいたのだけど、終わりの日は驚くほど呆気なくやってきた。
 
 
 
 
その日は、お風呂の中に娘が持って入ったスーパーボールを使って、二人で遊んでいた。スーパーボールを握りしめたり、背中の後ろなどに隠しては、どこに隠してあるかを当て合うという遊びだ。見つかると、隠す役を交替する。何度目かの、俺のターンがやってきた。俺は、スーパーボールを曲げた膝の裏に隠したため、娘はなかなか見つけることができなかった。「え?え?ないやん!どこ?どこなんっ?」と、無邪気にはしゃぐ娘の姿を見て、俺はすっかりうれしくなってしまった。ニヤリとしてから俺は、、、、
 
 
 
 
 
「ジャッジャ〜〜ン!
 
こ~こで~した~っ!!」
 
と言いながら、ボールを掴んで立ち上がった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
シ~~~~~~~~~ン
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そこには、冷たい目で俺を見つめる娘がいた。
 
 
 
 
俺は、決してやってはいけないことをやってしまったのだと気付いたが、もはや取り返しがつかなかった。俺は、ボールはボールでも、スーパーボールではなく、自分のボールを掴んで立ち上がったのだ。そう、玉だ。それは俺の金玉だ。ゴールデンボールだ。その日の俺は、しこたま酔ってご機嫌だったとはいえ、微妙なお年頃に差し掛かってきた娘に対しては、最低の行為だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
その日を境に、娘は俺と一緒にお風呂には入ろうとしなくなってしまったのである。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ま、まぁ、ある日いきなり一緒にお風呂に入ってくれなくなって、理由が分からないでモヤモヤするよりかはマシだと思っている。そういう意味では、英断とも言える。こっちから手を切ってやったのだ。ハッハッー、おかげで、今では湯船も広々と使えるしね。は?泣いてなんかいない。これは汗だ。涙なんかじゃない。絶対に泣くもんか。ふんっ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
世の中の、微妙なお年頃に差し掛かった娘を持つお父さんたちも、気を付けようね。
 
 
 
 
 
 
 
おわり