持ち味
近所のマックスバリューにいるレジ係の若い男の子の声が、むちゃくちゃええ声だ。年齢は二十代前半ってところだろうか。ぽっちゃりとして、色白の憎めない見た目からは、想像もつかないようなええ声をだして接客しやがる。それは、若さを生かした元気いっぱいなハイトーンではなく、あくまで抑えたロートーンであり、耳元で囁くような声だ。その落ち着きようはまるで、ベテランのようでもある。いつも、僕はレジに並ぶときにレジ係はあまり意識しないのだが、列が進んでたまたまその声の持ち主に出会えたときには「当たり!」と勝手に思っていた。
しかしだ。最近、逆に鼻に突き出したのだ。その声が……きっと、自分でも、ええ声だと思い始めてしまったのだろう。
「いらっしゃいますせぃえ〜。」
「レジ袋はどうなさいますかぅあ〜?」
「カードはお持ちではないでしょうかぁあ〜?」
「ありがとうございましたぁはあ〜。」
お前は一昔前の個性派の車掌さんか?
きっと誰かに、その声を褒められでもしたのだろう。はっは〜ん、パートのおばちゃんたちか?
「タニモッチャン(仮名)の声ええわぁ〜。」
「あたしもそう思うねん。この頃、あたしなんかタニモッチャン(仮名)の声聞いただけで、なんかこう元気が出てくるもん。」
「でもな、タニモッチャン(仮名)は声もええけどな。実は中身もなかなかええ男やねんでぇ〜。」
「あんまし、あんたが男のことを褒めとんのを聞いたことないもんな。こりゃ間違いないわ〜。タニモッチャン帰り道気ぃつけや〜。あんた狙われとるで〜ガハハハハ〜。」
おばちゃんに狙われて満更でもない谷本(仮名)君は、意識してしまったのだ。これでは持ち味が台無しだ。
今度から出会ったら「ハズレ」のことな。