被害者

みなさんは、「被害者は誰だ?」というゲームを知っているだろうか?お楽しみ会などでやると必ず盛り上がるゲームで、観客の中から何名か前へ出てもらい、いっせいに何かを食べてもらうやつだ。中に異物を隠しやすい食べ物が良いとされていて、それは、シュークリームであったり、サンドウィッチであったりし、そのうちの一つだけに当たりというか、外れのカラシやワサビが入っているやつで、いっせーのせーで食べた人たちには出来るだけ平気な顔をしてもらい、被害者が誰なのかを観客に当ててもらうやつだ……んもうっ、みなまで言わなくったってみんな、知ってるでしょうが。要するにロシアンルーレットだね。おほほほ。

さて、僕たちが子供だった頃、町内子供会で行うクリスマス会が、毎年僕の家の前にある自治会館で行われていた。そこでは、学年ごとに出し物をするのだけど、いつも六年生が「被害者は誰だ?」をやるという、なんとなくの習わしみたいなところがあったので、六年生になった僕らは当然のごとくその出し物を選んだ。

「僕ら」とは、小さな町内に住む七人の男子たちのことで、とても仲が良くてほとんど毎日一緒に遊んでいた。で、僕ら七人はクリスマス会の行われる日の午前中に、僕の家に集まって、台所の机にミキサーをセットした。

 

わざわざシュークリームやサンドウィッチなどを買いに行くのも面倒なので、あるもので勝負しようということになったのだ。家にはバナナが一房あったので、ミキサーにバナナと牛乳を入れてかき混ぜジュースにして、紙コップに入れて出すことにした。そして、被害者の飲むことになるジュース作りに、僕らは精を出した。バナナジュースの中に入れたのは、ワサビ、カラシetc……冷蔵庫や食品庫などを物色しては、ウヒャヒャヒャヒャーと笑いながらミキサーを回す僕ら……これは絶対に盛り上がるぞーっ。との僕らの期待をよそに、楽しくなるはずだったクリスマス会は大惨事となる。客席にいる下級生たちはドン引きしていた。被害者が、その(バナナジュースとはもはや呼べなくなった)液体を口に含んだ瞬間、ゲロを吐いたのである。その場にいた大人たちが、駆け寄ってきて紙コップに残った液体の匂いを嗅いでからこう叫んだ。





「誰や!正露丸入れたんはっ!!」

 

 

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そのあと僕らは、大人たちからこってりと怒られたのであった。

 

 

 

 

とても心外だった。

 

 

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百草丸も入れたんだけどな。

 

 

僕の家では、腹痛のときに飲む薬として、百草丸を常備していた。パッパカパッカーパッパパパ、パーパパパパッパッパッのテーマ曲でおなじみ、ラッパのマークの正露丸に比べると、百草丸はあまりメジャーな薬ではない。実は、この日の正露丸はA君が用意してうちに持って来た物だった。A君がポケットの中から銀紙に包まれた正露丸を取り出した瞬間、僕ら以外のみんなは、有頂天外になって盛り上がった。(ややこしい書き方で申し訳ないが、この時の「僕ら」とは、僕と双子の兄の二人のことだ。)

 

僕ら(双子)にとっては、正露丸にはあまり馴染みがなく、この世の中に百草丸より苦い薬はないと思っていたので、A君が正露丸を出してバナナジュースに調合した後すぐに、家の薬箱から百草丸を得意げに取り出したのだった。しかし、まさか百草丸がマイナーな薬だとは思わないので、ずいぶんみんなの反応が薄いなぁとは思いながらも、僕らだけは大いに盛り上がっていたのだ。しかし、結果は完敗だった。正露丸に完膚なきまでに打ちのめされてしまった百草丸と僕らだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おわり。

 

 

 

 

……え?

 

 

オチがないって?

 

 

いつも、オチがあると思わないでもらいたい。

 

 

ただそれだけの話だ。

 

 

 

それ以上でも、以下でもない。

 

 

 

 

おわり。

 

 

 

 

 

 

 

……は?

 

 

まだいたの?

 

 

あんたもなかなかしつこいね。さっきも言っただろ。オチはないよ。ないもんはないんだから仕方ないじゃないか。これ以上読んだって何も出ないよ。帰っとくれ。

 

 

 

 

 

 

 

おわり。

 

 

 

 

 

 

 

 

……はぁ。あんたにゃ負けたよ。オチに対するそのストイックさ、見事なもんさ。

 

 

 

 

 

でもな。

 

 

 

 

 

 

オチはないねん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さっさと、帰ってねんねしな。

 

 

 

   

 

 

 

 

おしまい。