反復横跳び

「お、お前なにしとんねんっ。」


S君は満面の笑みを浮かべながら、ハルカちゃんの周りを反復横跳びしている。そう、まさに反復横跳びだった。


それは、当時大学生だった俺が、幼稚園児だった甥っ子のS君にお菓子を買ってあげるために、スーパーマーケットへ連れて行ったときのことだ。お菓子売り場の棚の前に、S君の大好きなハルカちゃんがいたのだ。S君は、ハルカちゃんに駆け寄ってこう言った。


「お、お前なにしとんねんっ。」


このときのS君の興奮した息遣いを文章ではお伝えできないのが残念だが、言うならば、溢れるうれしさと、ほとばしるイキりとの共演だった。多分、S君は普段、幼稚園でハルカちゃんのことを、「お前」とは呼んでなかったと思われる。しかし、S君は仲良しのおじさん(つまり俺)と一緒にやって来たスーパーで、思いもよらずハルカちゃんと出会い、気分が高揚してしまったのだ。反復横跳びって、ちょっと話盛ってるんちゃうん?と、お思いかもしれないが、俺から見れば、S君がうれしそうに反復横跳びしているように見えたのだ。本当だ。反復横跳びしながら、こう言ったのだ。


「お、お前なにしとんねんっ。」


かわいかったなぁ。