へそのゴマ
小学生のころ、へそのゴマを取っていたら
「おヘソは触ったらアカン!お腹痛くなるで!」と、母によく言われた。
すると本当におなかが痛くなってきたもんだから、(多分きたない手で触っていたのだろう)
僕はへそのゴマを取るという習慣がないまま成人した。
30も半ばを超えたあるとき、何気なくへそを見ていると、奥の方になにやら潜んでいる。
こ、これは……!?
溜まりに溜まったへそのゴマは、驚くばかりの成長を遂げていた。
僕は途中で千切れてしまわないよう慎重にそれをひっぱり出すことにした。
もはや腹痛なんかにはかまってられやしない。
それはまるでサザエの身をひっぱりだすように、へそのねじれに合せてひねりを加えながら・・・
ぐりんっ!!
取り出し方のコツだけでなく、そのへそのゴマは形状までもがサザエの中身にそっくりだった。
もはやゴマというレベルではない。
こ、これだけの大きさの物体が長年に渡り、僕のおへそに鎮座していたのか?
からっぽになった僕のおへそはスース―していた。
まるで長かった髪をばっさり切った少女のように心も体も軽やかになった僕は、思わずそのへそのゴマをまじまじと顔の前に近づける。
それは先っちょのほうへ行けば行くほど白くてブヨブヨしている。
病めるときも健やかなるときも長年に渡り僕と共に歩んできたへそのゴマ。
・・・い、愛しい。
僕は更にそのへそのゴマを顔に近づける。
・・・うわっぷ
く、くさいっ!!
それはとてもくさかった。
思わずもう一度匂ってしまう・・・くさいっ。
しかし・・・また匂ってしまう。
だけども・・・くさい。
とても・・・・・・・・匂ってしまう。
しばらく楽しんだのちにやっと正気に戻った僕は、それをゴミ箱に捨てた。
今考えてみれば、赤ちゃんのへその緒入れる桐の小箱にでも入れて取っておけば良かったな。
おしまい。