ホームセンター

仕事中に、作業服の上着を羽織ったままホームセンターに行くと、店員に間違えられることがある。



昔からよくあることなのだが、僕には腑に落ちないことがある。勤め先の作業服が、ホームセンターの店員が着ているっぽい深緑や超青い作業服であるなら間違えられるのも分かる。しかし、僕の着ているのはそのへんのどこにでもよくあるような地味な作業服なのだ。



そんな僕は、お客さんから「すみません。◯◯はどこにありますか?」と間違って声をかけられた時のスマートな返し方をなかなか見つけられないでいた。



またかよ……と、内心イラついているので、「違いますからっ!」と、本当は声を荒げたいところなのだけど、そこはグッとこらえて、(だけど苦々しい顔をしながら)「ち、違いますから……。」と声を絞り出すのが、精一杯だ。いったいどう答えるのが、お互いにとって気まずくならずに済むのだろうか。最悪、その人と後ほどレジを待つ列でご一緒しなければならなくなることだってありえるのだ。出来れば、ことを荒立てたりしたくはない。





そうか、ホームセンターに入る前に、キチンと作業服を脱いでから行けばいいのだろうか?







そう考えた僕は、作業服を脱いで、ワイシャツ姿でホームセンターへ入るようにした。









結果は、同じことだった。







客「あのーすみません。」







僕「ち、違いますから……。」













僕は思い出した。



確かに時々、ワイシャツ姿で棚を整理している店員さんを見かける。



つまり僕は “ ホームセンターの店員顔 ” をしているのだろう。これでは、いつまでたっても僕は、ホームセンターで声をかけられてイラッとする。ということから、解放されないではないか。







最近では、ホームセンターで、いかにも何かを探しているおばさんと目が合ったら、声をかけられる前に、逃げることにしている。いちいち面倒なのだ。





しかし、これはこれで胸が痛む。おばさんからしたら、僕は店員に見えているわけなのだから、明らかに目が合ってるのに知らん顔をすることで、おばさんのそのホームセンターに対する心証が悪くなってしまう可能性だってあるのだ。







僕はホームセンターが好きだ。仕事で使う材料や道具もよく買いに行くし 、日常生活の様々なニーズにも答えてくれる。そして何に使うのだか、いったい誰か買うのだかわからないたくさんの商品たちを見ているだけで楽しくなってくるのだ。そんなホームセンターへの恩を仇で返すようなことはしたくない。







さて最近、このような僕のホームセンターに対する複雑な思いとサヨナラできる素晴らしい方法を思いついたのだ。これで、僕は今度から安心してホームセンターに行くことができるし、いちいちイライラしなくてもいい。もう二度とあんな思いをしなくても済むのだ。









その方法は至極簡単だ。

















ズボンのポケットに手を突っ込むのだ。















たったそれだけのことで、一気にホームセンターの店員感がなくなり、お客さん感が醸し出されるらしい。肩で風を切って歩けば、なお効果的だ。




その方法があまりにも簡単すぎて、今まで思いつきもしなかったが、二度と誰も僕には話しかけて来なくなったのだった。







「私もよく店員に間違えられて困ってるんですよ。」という方がいたら是非試してみてもらいたい。